Presentation Information
[T6-O-3]Holocene volcanic activity of Iwaki Volcano
*Hajime TANIUCHI1, Ryuta FURUKAWA1, Teruki OIKAWA1, Masao BAN2 (1. Geological Survey of Japan, AIST, 2. Faculty of Science, Yamagata University)
はじめに
完新世に活動履歴のある火山は今後も活動する可能性が高く、過去の活動実態とその時間変化を解明することは、理学的興味を満たすばかりでなく、火山防災に資する基礎情報ともなり得る。現在、産業技術総合研究所地質調査総合センターでは、東北日本弧北部の背弧側に位置する第四紀複成火山である岩木山の火山地質図を作成している。その一環として今回、岩木山の特に完新世における火山活動史について、明らかになった点を中心に報告する。
地形
航空レーザー測量結果を基とした1m DEMから作成された赤色立体地図を用いて、火山体の地形解析を行った。その結果、侵食の程度が低く完新世に形成したと考えられる火山地形は、現在の岩木山山頂周辺及び西側山腹のみに見られることが判明した。火山体の層序は、下位から西法寺森溶岩ドーム、岩木山西溶岩ドーム、岩木山中央溶岩ドーム、岩木山山頂溶岩ドーム、御倉石溶岩ドーム、大沢源頭火砕丘である(大沢源頭火砕丘は新称。その他の名称は、佐々木ほか, 1996, 2006, 火山学会要旨を一部改変)。また、御倉石溶岩ドームと大沢源頭火砕丘の南側には鳥海山溶岩ドームが存在し、大沢源頭火砕丘は南側で鳥海山溶岩ドームを被覆する(図1)。
これら溶岩ドーム上には、15の火口ないしは火口の可能性がある地形が存在する。本研究ではこれらを、岩木山東火口、岩木山南東火口、大沢源頭火口、種蒔苗代火口、鳥ノ海火口群、鳥海山西方火口群、湯ノ沢源頭火口群と命名した。これら火口及び火口群は東北東–西南西方向に配列する(図1)。
噴火堆積物層序
火山体上の露頭及び人力掘削トレンチ調査の結果、以下の堆積物を残した噴火イベントの存在が明らかになった。本発表ではこれらを仮に下位よりユニットaからhとする。各ユニットの推定堆積年代(14C年代の暦年較正年代)及び特徴は以下の通りである。
a. 11.3–11.7 ka
岩木山西溶岩ドームを被覆する火砕流堆積物(ブロックアンドアッシュフロー)
b. 9.3–9.5 ka
巌鬼山周辺の狭い範囲に分布する降下火山灰層
c. 7.3–7.8 ka
鳥海山及び南東山腹の比較的広範囲に分布するやや発泡した火山礫からなる降下火砕物層
d. 3.5–3.7 ka
東山腹に分布するやや発泡した火山礫からなる降下火砕物層
e. 2.4–2.7 ka
鳥海山溶岩ドーム西側斜面の狭い範囲に分布する降下火山灰層
f. 1.6–1.9 ka
岩木山中央溶岩ドーム上及び東側山腹に分布する降下火山灰層
g. 1.3 ka
岩木山中央及び岩木山西溶岩ドーム上の狭い範囲に分布する降下火山灰層
h. 0.5–0.6 ka
鳥海山及び岩木山中央溶岩ドーム上と東側山腹に分布する降下火山灰層
議論
岩木山西溶岩ドームを被覆する11.7–11.3 kaの火砕流堆積物(ブロックアンドアッシュフロー)は、岩木山西溶岩ドームに類似する化学組成の石質岩片を含む。また、岩木山中央溶岩ドーム東側の巌鬼山を被覆する9.5 kaを示す土壌の下位には、全岩化学組成から岩木山中央溶岩ドームに対比される岩片が散在する。以上の観察事実から、11.7–11.3 kaの火砕流堆積物(ブロックアンドアッシュフロー)は、岩木山中央溶岩ドーム形成噴火に伴って発生したと推定できる。つまり、岩木山中央溶岩ドームとそれよりも層序的に上位の山体が、完新世に形成されたものであろう。比較的若い時代に形成された大沢源頭火砕丘の層序的下位にあたる鳥海山溶岩ドームについては、表面侵食程度の比較から、岩木山西溶岩ドーム以前の活動と考えられ、完新世に形成されたとは考えづらい。つまり岩木山では、完新世の間に3つの溶岩ドーム(岩木山中央・岩木山山頂・御倉石)と1つの火砕丘(大沢源頭)が形成された可能性が高い。完新世に形成されたドーム周辺と山腹で観察される本質物主体の火砕物aからdは、これら溶岩ドーム及び火砕丘の形成イベントに関連した噴出物であると推定される。一方、それ以降のeからhの堆積物は、大沢源頭火口を除いた、溶岩ドーム上に形成されている火口及び火口群を形成した小規模マグマ噴火や水蒸気噴火に関連した堆積物と考えられる。
謝辞
弘前大学の佐々木実博士、北海道大学の中川光弘博士から岩木山に関する情報を提供していただきました。赤色立体地図の作成には国土地理院が管理する航空レーザー測量成果を使用しました。また本研究の一部は、文部科学省「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」の資金等の提供を受けたものです。関係各位及び当局に感謝申し上げます。
完新世に活動履歴のある火山は今後も活動する可能性が高く、過去の活動実態とその時間変化を解明することは、理学的興味を満たすばかりでなく、火山防災に資する基礎情報ともなり得る。現在、産業技術総合研究所地質調査総合センターでは、東北日本弧北部の背弧側に位置する第四紀複成火山である岩木山の火山地質図を作成している。その一環として今回、岩木山の特に完新世における火山活動史について、明らかになった点を中心に報告する。
地形
航空レーザー測量結果を基とした1m DEMから作成された赤色立体地図を用いて、火山体の地形解析を行った。その結果、侵食の程度が低く完新世に形成したと考えられる火山地形は、現在の岩木山山頂周辺及び西側山腹のみに見られることが判明した。火山体の層序は、下位から西法寺森溶岩ドーム、岩木山西溶岩ドーム、岩木山中央溶岩ドーム、岩木山山頂溶岩ドーム、御倉石溶岩ドーム、大沢源頭火砕丘である(大沢源頭火砕丘は新称。その他の名称は、佐々木ほか, 1996, 2006, 火山学会要旨を一部改変)。また、御倉石溶岩ドームと大沢源頭火砕丘の南側には鳥海山溶岩ドームが存在し、大沢源頭火砕丘は南側で鳥海山溶岩ドームを被覆する(図1)。
これら溶岩ドーム上には、15の火口ないしは火口の可能性がある地形が存在する。本研究ではこれらを、岩木山東火口、岩木山南東火口、大沢源頭火口、種蒔苗代火口、鳥ノ海火口群、鳥海山西方火口群、湯ノ沢源頭火口群と命名した。これら火口及び火口群は東北東–西南西方向に配列する(図1)。
噴火堆積物層序
火山体上の露頭及び人力掘削トレンチ調査の結果、以下の堆積物を残した噴火イベントの存在が明らかになった。本発表ではこれらを仮に下位よりユニットaからhとする。各ユニットの推定堆積年代(14C年代の暦年較正年代)及び特徴は以下の通りである。
a. 11.3–11.7 ka
岩木山西溶岩ドームを被覆する火砕流堆積物(ブロックアンドアッシュフロー)
b. 9.3–9.5 ka
巌鬼山周辺の狭い範囲に分布する降下火山灰層
c. 7.3–7.8 ka
鳥海山及び南東山腹の比較的広範囲に分布するやや発泡した火山礫からなる降下火砕物層
d. 3.5–3.7 ka
東山腹に分布するやや発泡した火山礫からなる降下火砕物層
e. 2.4–2.7 ka
鳥海山溶岩ドーム西側斜面の狭い範囲に分布する降下火山灰層
f. 1.6–1.9 ka
岩木山中央溶岩ドーム上及び東側山腹に分布する降下火山灰層
g. 1.3 ka
岩木山中央及び岩木山西溶岩ドーム上の狭い範囲に分布する降下火山灰層
h. 0.5–0.6 ka
鳥海山及び岩木山中央溶岩ドーム上と東側山腹に分布する降下火山灰層
議論
岩木山西溶岩ドームを被覆する11.7–11.3 kaの火砕流堆積物(ブロックアンドアッシュフロー)は、岩木山西溶岩ドームに類似する化学組成の石質岩片を含む。また、岩木山中央溶岩ドーム東側の巌鬼山を被覆する9.5 kaを示す土壌の下位には、全岩化学組成から岩木山中央溶岩ドームに対比される岩片が散在する。以上の観察事実から、11.7–11.3 kaの火砕流堆積物(ブロックアンドアッシュフロー)は、岩木山中央溶岩ドーム形成噴火に伴って発生したと推定できる。つまり、岩木山中央溶岩ドームとそれよりも層序的に上位の山体が、完新世に形成されたものであろう。比較的若い時代に形成された大沢源頭火砕丘の層序的下位にあたる鳥海山溶岩ドームについては、表面侵食程度の比較から、岩木山西溶岩ドーム以前の活動と考えられ、完新世に形成されたとは考えづらい。つまり岩木山では、完新世の間に3つの溶岩ドーム(岩木山中央・岩木山山頂・御倉石)と1つの火砕丘(大沢源頭)が形成された可能性が高い。完新世に形成されたドーム周辺と山腹で観察される本質物主体の火砕物aからdは、これら溶岩ドーム及び火砕丘の形成イベントに関連した噴出物であると推定される。一方、それ以降のeからhの堆積物は、大沢源頭火口を除いた、溶岩ドーム上に形成されている火口及び火口群を形成した小規模マグマ噴火や水蒸気噴火に関連した堆積物と考えられる。
謝辞
弘前大学の佐々木実博士、北海道大学の中川光弘博士から岩木山に関する情報を提供していただきました。赤色立体地図の作成には国土地理院が管理する航空レーザー測量成果を使用しました。また本研究の一部は、文部科学省「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」の資金等の提供を受けたものです。関係各位及び当局に感謝申し上げます。
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