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[T6-O-6]Generation of primary magmas in Futamatayama volcano, Nasu volcano group, Japan: Ascending and melting of mélange diapir

*Shota Watanabe1,2, Takeshi Hasegawa2 (1. Mount Fuji Research Institute, 2. Graduate School of Science and Engineering, Ibaraki University)
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Keywords:

Mélange,Basalt,Condition of magma generation,Subducting slab

沈み込み帯における初生マグマは,マントル物質にスラブ流体が付加して発生することが広く知られている1.しかし,近年この通説に一石を投じるメランジュダイアピルモデルが提案された2.このモデルは,固体スラブと固体マントルが機械的に混合してできたメランジュが,マントルウェッジを上昇しながら溶融して初生マグマを生成するというものである.これまでにメランジュの溶融は,噴出物の地球化学的特徴から推定されてきたが3,メランジュダイアピルの上昇に関する十分な証拠は得られていない.我々は,メランジュダイアピルの上昇を検証するために,二岐山火山において異なる時期(ステージ1:約16〜8万年前,ステージ2:約9〜5万年前4)に噴出した苦鉄質噴出物を採取・分析し,それぞれの初生マグマの生成条件を推定した.
 苦鉄質噴出物は,ステージごとにM-1とM-2に分けられ,安山岩〜デイサイトのホスト溶岩中に,苦鉄質包有物(SiO2 = 50.5–59.1 wt.%)として産出する.両者は,主に斜長石,カンラン石斑晶を含み,SiO2量の増加とともに輝石斑晶量が増加する.カンラン石斑晶の化学組成(M-1ではFo81–84,M-2ではFo73–78)は,それぞれの低SiO2試料の全岩化学組成(MgO量:M-1では約8.0 wt.%,M-2では約6.3 wt.%)と平衡である.また,低SiO2試料はEu異常をほとんど示さないが,高SiO2試料では負異常を示す.低SiO2試料においてM-1とM-2は類似したSr-Nd-Pb同位体比(87Sr/86Sr = 0.70433–0.70445,143Nd/144Nd = 0.51280–0.51281,208Pb/204Pb = 38.51–38.56)を示す.
 M-1とM-2について,初生情報を最もよく保存していると考えられる低SiO2試料から,その起源物質と初生マグマの生成条件を推定した.87Sr/86Sr-143Nd/144Nd図において,M-1とM-2の低SiO2試料は,スラブ流体成分とマントル成分の混合線にはプロットされず,固体スラブ成分とマントル成分の混合線にプロットされる.これは,M-1とM-2は,スラブとマントルが機械的に混合してできたメランジュが溶融して生成したことを示唆する.Sr-Nd同位体比から,メランジュは,主にマントル成分で構成され,これに3〜5%程度の堆積物成分と少量の変質海洋地殻成分が含まれると考えられる.
 M-1とM-2の低SiO2試料のEu異常は僅かであるため,斜長石の分別・濃集の影響は小さいと考えられる.そこで,低SiO2試料からカンラン石最大分別モデル5を用いて,M-1とM-2の初生マグマの化学組成を推定した.M-1の初生マグマは,M-2のそれよりもMgOが低いなどの主成分化学組成の違いが認められる.多成分熱力学解析により,M-1とM-2の初生マグマは,それぞれ1230°C,1236°Cの温度,1.5 GPa,1.1 GPaの圧力条件下において,含水量0.7 wt.%,1.2 wt.%の起源物質を15%,27%溶融して生成したと考えられる.Sr-Nd-Pb同位体比の類似性と,生成条件の浅化から,単一のメランジュダイアピルが上昇・溶融したことが示唆される.
 メランジュダイアピルがマントルウェッジを上昇する間に,温度がほぼ一定で,含水量が上昇し,溶融度が上昇したことが明らかになった.メランジュが閉鎖系ならば,断熱上昇によって温度は下がると考えられるので,今回の結果は,メランジュが上昇中に周囲から加熱されたことを示唆する.また,スラブ上面で生成されたメランジュは,含水鉱物を含んでいると考えられるが,メランジュが上昇中に加熱されることで,メランジュ内部で安定的に存在した含水鉱物が次第に分解・脱水し,水が連続的に溶融領域へ供給されたと考えられる.したがって,メランジュダイアピルの上昇に伴う溶融度の上昇は,減圧,加熱,加水による複合的な溶融プロセスに起因すると考えられる.さらに,メランジュダイアピルの上昇速度は,各ステージの噴出年代とマグマの生成圧力から約120〜540 m/kyと推定され,これはメランジュとマントルの密度差から求めた上昇速度6と調和的である.

文献
1. Sakuyama & Nesbitt, 1986, JVGR; 2. Marschall & Schumacher, 2012, Nat. Geosci.; 3. Nielsen & Marschall, 2017, Sci. Adv.; 4. 渡部ほか, 2023, 地質雑; 5. Tatsumi et al., 1983, JGR; 6. Batchelor, 1967, An introduction to fluid dynamics.

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