Presentation Information
[G-P-12]Geothermal power generation that Japan can take the lead in: Shallow supercritical geothermal power generation (part 2)
*Hisatoshi ITO1 (1. Central Research Institute of Electric Power Industry)
Keywords:
geothermal power generation,Quaternary,granite,Kurobegawa Granite
日本は地熱資源大国とされるが,地熱発電量は2021年3月時点で61万kWと少なく,米国のガイザース地熱地域1ヵ所の半分程度でしかない.これを打開するために,今後,日本で大規模な地熱開発を行う方法として,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)により超臨界地熱発電の開発計画が進められている.NEDOは,優先調査する有望地域として岩手県の八幡平と葛根田,秋田県湯沢南部,大分県九重の4地域を選定したようである.これらの地域では共通して,深度3~5 kmの温度400~500℃に存在すると考えられる超臨界地熱貯留層の地熱開発を目指している.このためには,大深度で高温に耐えうる掘削技術の開発が必要であるとともに,超臨界地熱貯留層の規模が小さい場合には貯留層を造成する技術開発も必要になると考えられる.以下では,日本のユニークな地質を利用した「浅部超臨界地熱発電」(Ito, 2024)の可能性について若干の考察を行った.
過去の事例: 次世代の地熱開発として,我が国では高温岩体発電研究が行われた.電力中央研究所が1986~2001年に秋田県で実施した例では,地下700 mと1000 mに2つの貯留層造成を試みたが,天然のフラクチャの影響で注入した水の回収率は最大でも25%であった(Ito, 2003)ことから,経済的な成立性が見込めなかった.オーストラリアでは,2002~2012年にCooper BasinでEnhanced geothermal systems (EGS)の開発を試み,地下4 kmの250℃の花崗岩に水圧破砕で貯留層を造成することを試みたが,坑井掘削に巨費を要したこと,深部の断層の影響もあり,人工貯留層が想定通りに開発できなかったことのため,経済的な成立性が見込めなかった(Holl, 2015).
浅部超臨界地熱発電: 北アルプス(飛騨山脈)には地表に露出する第四紀花崗岩が存在する.なかでも約1 Maに生成した黒部川花崗岩(Ito et al., 2021)は,最も若い年代(約0.8 Ma)を示す範囲(2地点で確認)で地熱兆候が見られる.このうちの1地点では,水力発電開発時に掘削されたトンネルの岩盤温度が175℃に達したとのことであるが,この地下にはさらに新しい花崗岩が伏在すると想定される.その場合,地下2 kmで400℃以上であると想定される.若い花崗岩であるため,天然のフラクチャは少なく,また,急激な隆起・削剥により,地下浅部では,応力開放(上載荷重の除去)の影響を受けて,水圧破砕により,水平方向に人工貯留層が形成されると想定される.従って,黒部川花崗岩の地熱兆候のある地域は,地下2 kmで超臨界地熱開発が可能な世界でも稀な場所であると考えられる.より深い深度での超臨界地熱開発を進めることは,将来の大規模地熱開発のために必要ではあるが,過去の轍を踏むリスクも大きいと思われる.開発のより容易な浅部での超臨界地熱発電の開発にも注目する必要があると思われる.
文献
Holl, H-G., 2015. What did we learn about EGS in the Cooper Basin? GEODYNAMICS LIMITED, Document Number: RES-FN-OT-RPT-01179.
Ito, H., 2003. Inferred role of natural fractures, veins, and breccias in development of the artificial geothermal reservoir at the Ogachi Hot Dry Rock site, Japan. J. Geophys. Res., 108(B9), 2426.
Ito, H., 2024. Geothermal power generation that Japan can take the lead in: Shallow supercritical geothermal power generation. Abstracts 2024 Japan Geoscience Union Meeting, HRE12-P05.
Ito, H., Adachi, Y., Cambeses, A., Bea, F., Fukuyama, M., Fukuma, K., Yamada, R., Kubo, T., Takehara, M. and Horie, K., 2021. The Quaternary Kurobegawa Granite: an example of a deeply dissected resurgent pluton. Sci. Rep., 11, 22059.
過去の事例: 次世代の地熱開発として,我が国では高温岩体発電研究が行われた.電力中央研究所が1986~2001年に秋田県で実施した例では,地下700 mと1000 mに2つの貯留層造成を試みたが,天然のフラクチャの影響で注入した水の回収率は最大でも25%であった(Ito, 2003)ことから,経済的な成立性が見込めなかった.オーストラリアでは,2002~2012年にCooper BasinでEnhanced geothermal systems (EGS)の開発を試み,地下4 kmの250℃の花崗岩に水圧破砕で貯留層を造成することを試みたが,坑井掘削に巨費を要したこと,深部の断層の影響もあり,人工貯留層が想定通りに開発できなかったことのため,経済的な成立性が見込めなかった(Holl, 2015).
浅部超臨界地熱発電: 北アルプス(飛騨山脈)には地表に露出する第四紀花崗岩が存在する.なかでも約1 Maに生成した黒部川花崗岩(Ito et al., 2021)は,最も若い年代(約0.8 Ma)を示す範囲(2地点で確認)で地熱兆候が見られる.このうちの1地点では,水力発電開発時に掘削されたトンネルの岩盤温度が175℃に達したとのことであるが,この地下にはさらに新しい花崗岩が伏在すると想定される.その場合,地下2 kmで400℃以上であると想定される.若い花崗岩であるため,天然のフラクチャは少なく,また,急激な隆起・削剥により,地下浅部では,応力開放(上載荷重の除去)の影響を受けて,水圧破砕により,水平方向に人工貯留層が形成されると想定される.従って,黒部川花崗岩の地熱兆候のある地域は,地下2 kmで超臨界地熱開発が可能な世界でも稀な場所であると考えられる.より深い深度での超臨界地熱開発を進めることは,将来の大規模地熱開発のために必要ではあるが,過去の轍を踏むリスクも大きいと思われる.開発のより容易な浅部での超臨界地熱発電の開発にも注目する必要があると思われる.
文献
Holl, H-G., 2015. What did we learn about EGS in the Cooper Basin? GEODYNAMICS LIMITED, Document Number: RES-FN-OT-RPT-01179.
Ito, H., 2003. Inferred role of natural fractures, veins, and breccias in development of the artificial geothermal reservoir at the Ogachi Hot Dry Rock site, Japan. J. Geophys. Res., 108(B9), 2426.
Ito, H., 2024. Geothermal power generation that Japan can take the lead in: Shallow supercritical geothermal power generation. Abstracts 2024 Japan Geoscience Union Meeting, HRE12-P05.
Ito, H., Adachi, Y., Cambeses, A., Bea, F., Fukuyama, M., Fukuma, K., Yamada, R., Kubo, T., Takehara, M. and Horie, K., 2021. The Quaternary Kurobegawa Granite: an example of a deeply dissected resurgent pluton. Sci. Rep., 11, 22059.
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