Presentation Information
[T9-O-1][Invited]Geology of Kyushu revealed by wide-area geological survey
*Makoto Saito1 (1. Geological Survey of Japan, AIST)
Keywords:
Kyushu,accretionary complex,Kurosegawa
1990年より,九州中央〜南部の “四万十帯”,“秩父帯”,“黒瀬川帯”を含む地質図幅の調査を行ってきた.九州の中南部を基盤岩類の分布を縦断するように5万分の1地質図幅「末吉」(斎藤ほか,1994),「椎葉村」(斎藤ほか,1996),「砥用」(斎藤ほか2005)を作成し,それらを基準にして20万分の1地質図幅「宮崎」(斎藤ほか,1997),「開聞岳及び黒島の一部」(川辺ほか,2004),「屋久島」(斎藤ほか,2007),「中之島及び宝島」(中野ほか,2008),「徳之島」(斎藤ほか,2009),「八代及び野母崎の一部」(斎藤ほか,2010),「大分」(星住ほか,2015)を公表してきた.
九州は帯状構造をしていないように見えるため,例えば2016年発行のGeology of Japanでも本州は時代別に記述されているが,九州は別立てである.しかし,関東〜南西諸島まで,非変成の付加体の分布は地表で連続する.九州では白亜紀以降の付加体が低角な地質構造をもつこと,後期中新世以降引張場に置かれ正断層が発達し低角な地層の境界を大きく変異させること,中央部では三波川変成岩類が地下に潜り,東部と西部にしか分布せず,地表には広く古生代〜中生代の高圧変成岩類(旧三郡変成岩類)や,白亜紀深成・変成岩類が分布すること(場所によっては三波川変成岩類が白亜紀深成岩類より北側に露出する)などが,地質の認識が進まない理由であろう.
これまでの地質研究で主に明らかになってきたことは以下の通りである.
”黒瀬川帯”の構成岩類(前期古生代深成・変成岩類,ペルム紀付加体,古生代〜中生代高圧変成岩類,古生代〜白亜紀正常堆積物)は,ジュラ紀付加体の構造的上位に蛇紋岩を伴う断層関係で構造的に重なり,走向方向に平行な軸を持つ向斜部に分布する.これは松本・勘米良(1952)*1で知られていたとおりで,磯﨑・板谷(1991)*2のいう黒瀬川クリッペは九州では普通に認識できる.これは,九州の基盤岩類が形成後の変形が少ないことが影響している.
三波川変成岩類は佐賀関半島から西に地下に潜った後,天草の西側と西彼杵半島で地表に現れる.一方,三畳紀〜前期ジュラ紀の変成年代を持つ周防変成岩類は臼杵-八代構造線付近まで分布し,”黒瀬川帯”のメンバーとして分布する.Isozaki and Itaya(1989)*3が臼杵市の海岸沿いの大野川層群中に見いだした前期ジュラ紀の高圧変成岩礫と同じ年代の変成岩は,そのすぐ南側に分布する.
九州の古第三紀付加体(“四万十帯”の日向層群)は,白亜紀付加体(諸塚層群)形成後,2500万年以上空けて,中期始新世に急に形成が始まる(Saito,2008*4).両者は沈み込んだ海洋プレートの年代も大きく異なる可能性が高く,”四万十帯”と一括するには問題が大きい.一方,天草の正常堆積物の層序の空白は,付加体が形成されていない時期とほぼ一致する.付加体の形成と前弧海盆(島弧内)の堆積物の形成,トカラ海峡以南の古第三紀火成活動など関連づけて日本列島の発達史を考える必要がある.
九州の付加体は,削剥深度が浅く,付加体を覆う堆積物がしばしば残る.”四万十帯”と呼ばれる地域では,砂と泥が主体で区別が難しい.構成物の上下の年代極性,堆積相の特徴,変形の程度,大型化石の有無,微化石群集の違いなどを元に,付加体か正常堆積物か判断し地質図に表現してきた.白亜系では南薩の知覧層や,北薩の柊野層などが正常堆積物にあたり,四国の宇和島層群に相当する.また同様の堆積物は古第三紀末の日南層群では昔から知られており,日向層群を覆うところもある.地向斜から一旦は付加体と認識された地層群,特に”四万十帯”の地層群については,付加体か否かを冷静に検討べきである.一方,ジュラ紀付加体では,付加体を覆う堆積物は,海溝斜面の堆積物やその崩壊物が付加体を覆うことが知られている(石田. 2006*5など).また,南縁部の後期ジュラ紀〜白亜紀初頭の付加体(“三宝山帯”)を覆う堆積物(鳥巣層群相当層)も地質図に表現している.
九州パラオ海嶺の沈み込み西南日本弧と琉球弧の会合部にあたる九州の地質から見ると,古第三紀付加体と大陸側の正常堆積物の関係と同様,四国海盆の沈み込み,外帯花崗岩の形成,三波川変成岩類の露出域の関係性,現在の火山フロントの位置,カルデラ噴火の発生など興味深い点が多いと考えている.
文献(地質図幅を除く)
*1 地質巡檢旅行案内書「球磨川下流々域」(第59回地質学会)
*2 地質雑, 97,431-450.
*3 Isozaki and Itaya(1989)J.Geol.Soc.Japan,95,361-368.
*4 Island Arc,17,242-260.
*5熊本大理紀要(地球科学),18,69-87.
図)https://www.gsj.jp/hazards/earthquake/kumamoto2016/kumamoto20160513-2.html
九州は帯状構造をしていないように見えるため,例えば2016年発行のGeology of Japanでも本州は時代別に記述されているが,九州は別立てである.しかし,関東〜南西諸島まで,非変成の付加体の分布は地表で連続する.九州では白亜紀以降の付加体が低角な地質構造をもつこと,後期中新世以降引張場に置かれ正断層が発達し低角な地層の境界を大きく変異させること,中央部では三波川変成岩類が地下に潜り,東部と西部にしか分布せず,地表には広く古生代〜中生代の高圧変成岩類(旧三郡変成岩類)や,白亜紀深成・変成岩類が分布すること(場所によっては三波川変成岩類が白亜紀深成岩類より北側に露出する)などが,地質の認識が進まない理由であろう.
これまでの地質研究で主に明らかになってきたことは以下の通りである.
”黒瀬川帯”の構成岩類(前期古生代深成・変成岩類,ペルム紀付加体,古生代〜中生代高圧変成岩類,古生代〜白亜紀正常堆積物)は,ジュラ紀付加体の構造的上位に蛇紋岩を伴う断層関係で構造的に重なり,走向方向に平行な軸を持つ向斜部に分布する.これは松本・勘米良(1952)*1で知られていたとおりで,磯﨑・板谷(1991)*2のいう黒瀬川クリッペは九州では普通に認識できる.これは,九州の基盤岩類が形成後の変形が少ないことが影響している.
三波川変成岩類は佐賀関半島から西に地下に潜った後,天草の西側と西彼杵半島で地表に現れる.一方,三畳紀〜前期ジュラ紀の変成年代を持つ周防変成岩類は臼杵-八代構造線付近まで分布し,”黒瀬川帯”のメンバーとして分布する.Isozaki and Itaya(1989)*3が臼杵市の海岸沿いの大野川層群中に見いだした前期ジュラ紀の高圧変成岩礫と同じ年代の変成岩は,そのすぐ南側に分布する.
九州の古第三紀付加体(“四万十帯”の日向層群)は,白亜紀付加体(諸塚層群)形成後,2500万年以上空けて,中期始新世に急に形成が始まる(Saito,2008*4).両者は沈み込んだ海洋プレートの年代も大きく異なる可能性が高く,”四万十帯”と一括するには問題が大きい.一方,天草の正常堆積物の層序の空白は,付加体が形成されていない時期とほぼ一致する.付加体の形成と前弧海盆(島弧内)の堆積物の形成,トカラ海峡以南の古第三紀火成活動など関連づけて日本列島の発達史を考える必要がある.
九州の付加体は,削剥深度が浅く,付加体を覆う堆積物がしばしば残る.”四万十帯”と呼ばれる地域では,砂と泥が主体で区別が難しい.構成物の上下の年代極性,堆積相の特徴,変形の程度,大型化石の有無,微化石群集の違いなどを元に,付加体か正常堆積物か判断し地質図に表現してきた.白亜系では南薩の知覧層や,北薩の柊野層などが正常堆積物にあたり,四国の宇和島層群に相当する.また同様の堆積物は古第三紀末の日南層群では昔から知られており,日向層群を覆うところもある.地向斜から一旦は付加体と認識された地層群,特に”四万十帯”の地層群については,付加体か否かを冷静に検討べきである.一方,ジュラ紀付加体では,付加体を覆う堆積物は,海溝斜面の堆積物やその崩壊物が付加体を覆うことが知られている(石田. 2006*5など).また,南縁部の後期ジュラ紀〜白亜紀初頭の付加体(“三宝山帯”)を覆う堆積物(鳥巣層群相当層)も地質図に表現している.
九州パラオ海嶺の沈み込み西南日本弧と琉球弧の会合部にあたる九州の地質から見ると,古第三紀付加体と大陸側の正常堆積物の関係と同様,四国海盆の沈み込み,外帯花崗岩の形成,三波川変成岩類の露出域の関係性,現在の火山フロントの位置,カルデラ噴火の発生など興味深い点が多いと考えている.
文献(地質図幅を除く)
*1 地質巡檢旅行案内書「球磨川下流々域」(第59回地質学会)
*2 地質雑, 97,431-450.
*3 Isozaki and Itaya(1989)J.Geol.Soc.Japan,95,361-368.
*4 Island Arc,17,242-260.
*5熊本大理紀要(地球科学),18,69-87.
図)https://www.gsj.jp/hazards/earthquake/kumamoto2016/kumamoto20160513-2.html
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