Presentation Information
[T16-O-18]Conodont-radiolarian biostratigraphy and lithofacies changes of the Upper Triassic bedded chert succession from the Chichibu Belt, Tsukumi area, southwest Japan.
*Yuki Tomimatsu1, Tetsuji Onoue2 (1. Fukuoka University, 2. Kyushu University)
Keywords:
Upper Triassic,conodont,radiolarian,Jurassic accretionary complex,Carnian Pluvial Episode
後期三畳紀カーニアン(2億3200万年前)では一時的な湿潤気候への移行が知られ,このイベントはカーニアン多雨事象(Carnian Pluvial Episode: CPE)と呼ばれている(Simms et al., 1989).CPEが発生した前期カーニアン(ユリアン)最後期〜後期カーニアン(チュバリアン)最初期では,日本やヨーロッパ,中国の研究から,堆積相の明瞭な変化や海棲生物の絶滅と陸上生物の進化的変化が報告されており,その原因として当時パンサラッサ海で起こったWrangellia巨大火成岩岩石区の噴出に伴う大規模火成活動が提案されている(Dal corso et al., 2020).また,日本列島に分布する複数のジュラ紀付加体中の上部三畳系カーニアン層状チャートには,層状マンガン鉱床が狭在する明瞭な岩相変化が観察されており,これらは,ユリアン末期のWrangellia大規模火成活動最盛期における海洋酸化還元環境の変化に伴って,当時の遠洋域において広域にわたって形成された可能性が示唆されている(Tomimatsu et al., 2023).しかし,上部三畳系カーニアン層状マンガン鉱床の産出する地域では褶曲や断層が発達し,連続的な岩相層序が保存されているセクションは乏しいため,CPE期間における海洋環境変動の規模,および岩相変化との関連性は十分に明らかでない.
そこで本研究では,九州東部秩父帯の津久見地域に分布する上部三畳系層状チャート(江の浦層:Nishi, 1994)の未検討セクションを対象として,岩相層序およびコノドント・放散虫化石層序に基づいて産状と堆積年代の検討を行った.
検討したセクションは大分県津久見市四浦に位置し,下位から灰緑色層状チャート,灰色層状チャート,赤色層状チャート,マンガン鉱石を挟む灰色層状チャート,赤白珪石を含む赤色塊状チャート,灰色層状チャートの順に累重し,約8.5 mにわたり連続して露出する.赤色塊状チャートの薄片観察の結果,放散虫遺骸の他に円磨度の悪い黒色や赤褐色の微粒子,黒色の球状粒子を含む.セクション下部〜中部からは保存が悪い放散虫化石が産出し,灰緑色層状チャートから層状マンガン鉱石を挟む灰色層状チャートの区間では,カーニアンを示すCapnuchosphaera属やTriassocampe postdeweveriを含む Triassocampe 属が得られた.セクション上部では保存状態の良いコノドントおよび放散虫化石が多産し,赤色および灰色層状チャートから後期カーニアンのチュバリアンを示すコノドントのCarnepigondolella zoae,Metapolygnathus praecommunisti,Quadralella tuvalicaなどが得られた.さらに後期カーニアンを示す放散虫化石のEnoplocampe yehae,Poulpus sp. cf. P. carcharus,Trialatus megacornutusなどが産した.産出した放散虫化石に基づくと,検討セクション下部〜中部の堆積年代はカーニアン以降であり,セクション上部は後期カーニアンのチュバリアンであることが明らかとなった.セクション下部〜中部ではチャートの色相・岩相が明瞭に変化しており,検討セクションの堆積年代からも,CPE期間における海洋環境変動を連続して記録している可能性が示唆される.
本研究の結果,層状マンガン鉱石を挟む上部三畳系カーニアン層状チャートが連続して露出する研究セクションを発見することができた.本検討セクションに産するマンガン鉱石は,層状チャートから産出した微化石に基づくと,日本各地に分布するジュラ紀付加体の上部三畳系層状チャート中に産するカーニアン層状マンガン鉱床と同時期に形成した可能性が高い.
従来の日本におけるCPE研究では,美濃帯犬山地域の上部三畳系層状チャートが用いられてきたが,他の地質帯で見られる層状マンガン鉱床は認められないことがわかっている.今後は同時代の堆積物中に層状マンガン鉱床の有無が生じる原因についても検討していく必要がある.また,本研究地域の層状チャートに対して地球化学的研究を進め,他地域の先行研究と比較・検討を行い,カーニアンに起こったCPE期間中の環境変動のトリガー(火成活動や酸化還元環境変動など)の規模について検討を進める予定である.
【引用文献】
Simms, M.J., Ruffell, A.H., 1989, Geology 17, 265–268.
Dal Corso, J. et al. 2020, Sci. Adv. 6, 1–13.
Tomimatsu, Y. et al., 2023, Scientific Reports, 13(1), 16316.
Nishi, T. 1994, Jour. Geol. Soc. Japan, 100, 3, 199-215.
そこで本研究では,九州東部秩父帯の津久見地域に分布する上部三畳系層状チャート(江の浦層:Nishi, 1994)の未検討セクションを対象として,岩相層序およびコノドント・放散虫化石層序に基づいて産状と堆積年代の検討を行った.
検討したセクションは大分県津久見市四浦に位置し,下位から灰緑色層状チャート,灰色層状チャート,赤色層状チャート,マンガン鉱石を挟む灰色層状チャート,赤白珪石を含む赤色塊状チャート,灰色層状チャートの順に累重し,約8.5 mにわたり連続して露出する.赤色塊状チャートの薄片観察の結果,放散虫遺骸の他に円磨度の悪い黒色や赤褐色の微粒子,黒色の球状粒子を含む.セクション下部〜中部からは保存が悪い放散虫化石が産出し,灰緑色層状チャートから層状マンガン鉱石を挟む灰色層状チャートの区間では,カーニアンを示すCapnuchosphaera属やTriassocampe postdeweveriを含む Triassocampe 属が得られた.セクション上部では保存状態の良いコノドントおよび放散虫化石が多産し,赤色および灰色層状チャートから後期カーニアンのチュバリアンを示すコノドントのCarnepigondolella zoae,Metapolygnathus praecommunisti,Quadralella tuvalicaなどが得られた.さらに後期カーニアンを示す放散虫化石のEnoplocampe yehae,Poulpus sp. cf. P. carcharus,Trialatus megacornutusなどが産した.産出した放散虫化石に基づくと,検討セクション下部〜中部の堆積年代はカーニアン以降であり,セクション上部は後期カーニアンのチュバリアンであることが明らかとなった.セクション下部〜中部ではチャートの色相・岩相が明瞭に変化しており,検討セクションの堆積年代からも,CPE期間における海洋環境変動を連続して記録している可能性が示唆される.
本研究の結果,層状マンガン鉱石を挟む上部三畳系カーニアン層状チャートが連続して露出する研究セクションを発見することができた.本検討セクションに産するマンガン鉱石は,層状チャートから産出した微化石に基づくと,日本各地に分布するジュラ紀付加体の上部三畳系層状チャート中に産するカーニアン層状マンガン鉱床と同時期に形成した可能性が高い.
従来の日本におけるCPE研究では,美濃帯犬山地域の上部三畳系層状チャートが用いられてきたが,他の地質帯で見られる層状マンガン鉱床は認められないことがわかっている.今後は同時代の堆積物中に層状マンガン鉱床の有無が生じる原因についても検討していく必要がある.また,本研究地域の層状チャートに対して地球化学的研究を進め,他地域の先行研究と比較・検討を行い,カーニアンに起こったCPE期間中の環境変動のトリガー(火成活動や酸化還元環境変動など)の規模について検討を進める予定である.
【引用文献】
Simms, M.J., Ruffell, A.H., 1989, Geology 17, 265–268.
Dal Corso, J. et al. 2020, Sci. Adv. 6, 1–13.
Tomimatsu, Y. et al., 2023, Scientific Reports, 13(1), 16316.
Nishi, T. 1994, Jour. Geol. Soc. Japan, 100, 3, 199-215.
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