Presentation Information
[G6-O-2]Relationship between recent ostracod assemblages and environment from Lake Shinji to Lake Nakaumi, southwestern Japan★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
*Aki ISHIGAKI1, Toshiaki IRIZUKI1, Koji SETO1, Mika SHIMAIKE1, Akira TSUJIMOTO1 (1. Shimane Univ.)
Keywords:
ostracod,Lake Nakaumi,Lake Shinji,Ohashi River,Reclamation and Freshening Project
宍道湖・中海は島根県東部の中国山地を水源とする斐伊川の河口に位置する汽水湖で,全国で宍道湖は7番目,中海は5番目に大きい.宍道湖は大橋川を通じて中海と繋がり,中海は境水道を通じて日本海(美保湾)と繋がっている.中海では,国営干拓・淡水化事業が1963年に計画され,本格的な工事が1968年より開始された.湖口部の中浦水門の設置及び中海北西部の本庄水域を囲む森山堤防などの堤防工事,沿岸の干拓工事などが行われ,工事の前後では日本海から流入する海水の経路が大きく変化した.海水は工事前には境水道から大根島を反時計回りに,工事後には江島東方の中浦水門を南下して時計回りに湖へ流入するようになった.また,本庄水域は完全に閉鎖され,海水が流入しなくなった.その後,2002年12月に干拓・淡水化事業は中止され,中浦水門や本庄水域の西部承水路堤防の撤去及び森山堤防の一部開削工事が2009年までに行われ,本庄水域にも海水が流入するようになった.このような干拓・淡水化事業の前後に,本研究で対象にした微小甲殻類で2枚の石灰質殻を持ち“微化石”として有用な貝形虫に関する研究が行われた(Ishizaki,1969; 高安ほか,1990;田中ほか,1998;入月ほか,2003).
本研究の目的はこれらの既存研究結果と2021年における調査結果を比較し,過去約60年間に行われた人工改変により宍道湖から中海の貝形虫群集と環境がどのように変化してきたのかを検討することである.
本研究では,2021年8月に島根大学エスチュアリー研究センター所有の小型船舶を利用し,水質調査を行ったのち,船上からエクマンバージ式グラブ採泥器により採取された底質の表層1 cmを分析に使用した.堆積物を開口径63μmの篩上で水洗し,貝形虫の生体と遺骸の区別を容易にするため,ローズベンガルで染色し,水洗・乾燥させた.その後,乾燥試料を開口径75μmの篩で分別し,粗粒な堆積物を適宜分割して,生体と遺骸の全貝形虫を双眼実体顕微鏡下で抽出した.
調査時点の水質に関して,中海では水深4 m前後に塩分躍層が存在し,底層の塩分はそれより深い地点で29~31 psu,浅い地点では10 psu以下であった.大橋川の底層は11 psu,宍道湖の底層は河口付近で7~10 psu,それ以外の地点は1 psu前後となった.採取した試料から少なくとも生体と遺骸を合わせて123種の貝形虫が産出した.最優占種は約60年間を通して変わらず,日本全国の閉鎖的内湾中央部泥底で優占し(池谷・塩崎,1993),有機汚濁に耐性があり(入月ほか,2003),塩分が30 psuで多産する(石垣ほか,2023)Bicornucythere bisanensisであった.この種は大根島南東の沿岸,旧中浦水門の南,および湖心から多産し,いくつかの地点では独占した.この種は本庄水域の森山堤防の開削地点周辺と大根島北の沿岸でも産出し,どの地点においても工事後の1986年から2002年の間より個体数が増加していた.大根島周辺や森山堤防沿いの沿岸ではXestoleberis hanaiiやHemicythere miiiなどの沿岸の葉上・砂底種が多産し,以前より増加していたことから,沿岸には海藻や海草が繁茂し,種の多様性が高くなったと推定される.低塩分あるいは塩分変動の激しい場所に生息するSpinileberis furuyaensis,Cytherura miii,Dolerocypria mukaishimensisは大橋川河口周辺及び大橋川で散点的に産出した.境水道では最も種多様度が高く,沿岸砂底種のPontocythere subjaponicaと外洋性種のLoxoconcha optimaやTrachyleberis niitsumaiが多産したが,ほとんどは遺骸殻であった.貝形虫は本庄水域の中央部,中海南部,大橋川及び宍道湖では少なく,無産出の地点も多くみられた.種多様度は大根島周辺で高かったが,湖心へ向け減少し,1種のみの場所も多かった.
引用文献 池谷・塩崎(1993)地質論,no. 39,15–32.石垣ほか(2023)汽水域研究会第15回三重大会講演要旨.Ishizaki(1969)Sci. Rep. Tohoku Univ., 2nd Ser. (Geol.), 41, 197–224.入月ほか(2003)島根大地球資源環境学研報,no. 22,149–160.高安ほか(1990)島根大地質研報,no. 9,129–144.田中ほか(1998)Laguna,no. 5,81-91.
本研究の目的はこれらの既存研究結果と2021年における調査結果を比較し,過去約60年間に行われた人工改変により宍道湖から中海の貝形虫群集と環境がどのように変化してきたのかを検討することである.
本研究では,2021年8月に島根大学エスチュアリー研究センター所有の小型船舶を利用し,水質調査を行ったのち,船上からエクマンバージ式グラブ採泥器により採取された底質の表層1 cmを分析に使用した.堆積物を開口径63μmの篩上で水洗し,貝形虫の生体と遺骸の区別を容易にするため,ローズベンガルで染色し,水洗・乾燥させた.その後,乾燥試料を開口径75μmの篩で分別し,粗粒な堆積物を適宜分割して,生体と遺骸の全貝形虫を双眼実体顕微鏡下で抽出した.
調査時点の水質に関して,中海では水深4 m前後に塩分躍層が存在し,底層の塩分はそれより深い地点で29~31 psu,浅い地点では10 psu以下であった.大橋川の底層は11 psu,宍道湖の底層は河口付近で7~10 psu,それ以外の地点は1 psu前後となった.採取した試料から少なくとも生体と遺骸を合わせて123種の貝形虫が産出した.最優占種は約60年間を通して変わらず,日本全国の閉鎖的内湾中央部泥底で優占し(池谷・塩崎,1993),有機汚濁に耐性があり(入月ほか,2003),塩分が30 psuで多産する(石垣ほか,2023)Bicornucythere bisanensisであった.この種は大根島南東の沿岸,旧中浦水門の南,および湖心から多産し,いくつかの地点では独占した.この種は本庄水域の森山堤防の開削地点周辺と大根島北の沿岸でも産出し,どの地点においても工事後の1986年から2002年の間より個体数が増加していた.大根島周辺や森山堤防沿いの沿岸ではXestoleberis hanaiiやHemicythere miiiなどの沿岸の葉上・砂底種が多産し,以前より増加していたことから,沿岸には海藻や海草が繁茂し,種の多様性が高くなったと推定される.低塩分あるいは塩分変動の激しい場所に生息するSpinileberis furuyaensis,Cytherura miii,Dolerocypria mukaishimensisは大橋川河口周辺及び大橋川で散点的に産出した.境水道では最も種多様度が高く,沿岸砂底種のPontocythere subjaponicaと外洋性種のLoxoconcha optimaやTrachyleberis niitsumaiが多産したが,ほとんどは遺骸殻であった.貝形虫は本庄水域の中央部,中海南部,大橋川及び宍道湖では少なく,無産出の地点も多くみられた.種多様度は大根島周辺で高かったが,湖心へ向け減少し,1種のみの場所も多かった.
引用文献 池谷・塩崎(1993)地質論,no. 39,15–32.石垣ほか(2023)汽水域研究会第15回三重大会講演要旨.Ishizaki(1969)Sci. Rep. Tohoku Univ., 2nd Ser. (Geol.), 41, 197–224.入月ほか(2003)島根大地球資源環境学研報,no. 22,149–160.高安ほか(1990)島根大地質研報,no. 9,129–144.田中ほか(1998)Laguna,no. 5,81-91.
Comment
To browse or post comments, you must log in.Log in