Presentation Information
[T4-O-1]Significance of introducing the concept of the "Anthropocene" into Geoparks
*Kazuo AMANO1,2 (1. Center for Spatial Information Science of The University of Tokyo, 2. Japan Geopark Academic Support Union)
Keywords:
Anthropocene,geopark
ジオパークの基本的な思想は,人間の経済的・文化的活動は,人間の社会を取り巻いている生態的な環境の中で展開されているが,それらはその地域の大地の成り立ち(ジオ)と深く関連しているとまとめられる.この考えに従って,発想の出発点を現在の人間の活動とし,過去の遡るとともに目を未来にもむけて未来の地球を考えるという観点から議論を展開したい.その際,いわゆる“人新世”の概念が大きな助けとなるものと考える.
“人新世”は,人類が地球の歴史や環境に決定的な影響をおよぼしている特別の地質時代として,オランダの大気化学者のPaul Jozef Crutzenによって提唱された1.その後,国際地球科学連合(IUGS)の下の人新世作業部会(AWG)で検討が重ねられ,2023年7月にカナダのクロフォード湖が人新世のGSSP候補地として発表された.“人新世”のはじまりは1950年とされた.1950年は,人類の社会経済活動が急激に活発化し,それに伴って地球の自然のシステムの変化の速度が大きく加速される年とされた.そして,境界認識のための主マーカーは,核実験に伴う放射性核種(239PUなど)の急増とされた.
“人新世”が正式の地質時代に認定されるためには,その上位の第四紀層序小委員会(SQS),国際層序委員会(ISC)の投票により60%以上の賛成が必要であり,最終的にはIUGS理事会での最終決定が必要である.2024 年2 月〜3 月初旬にSQSの投票が行われ反対12,賛成4,棄権3 で提案は否決された.否決の理由は,1950 年を起点とする人新世は,人類が地球に与えた影響の歴史としては短じかすぎるなどであった.しかし,その投票に対して不正があったとして,異議申し立てがなされた2が,その後ICSが投票の有効性を調査し,3 月21日付けでAWGの人新世否認投票結果を承認した3.これによって,“人新世”の地質時代否認が確定した.20 年以上にわたって検討されてきた“人新世”の正式地質時代設定は,否決された.
“人新世”の正式地質年代への認定は否決されたが,ICSの報告書には次のただし書きが付いている.『地質学的時間スケールの正式な単位としては却下されたものの,人新世は地球科学者や環境科学者だけでなく,社会科学者,政治家、経済学者、そして一般の人々にも使われ続けるだろう。人新世は,人類が地球システムに与えた影響を示す,かけがえのない言葉であり続けるだろう。』これは,“人新世”は正式の地質年代尺度ではないが,その基本的な概念は活きているということなる.“人新世”の年代幅は,今年も含めて74年である.この年代幅は,地球科学の門外漢である一般市民にとっても,普通の感覚で認識できる対象である.これは,従来からあった普段の生活と地質学的現象との時間的ギャップを埋めるために“人新世”が良い材料になることをしめしている.地球温暖化といったグローバルな現象をどうジオパークのテーマに取り込み,個々の地域で具体的に扱っていくかもジオパークの今後の課題となろう.日本ジオパークネットワークの企画「地球時間の旅展」で提示されている『未来を作る今の私たち』というフレーズは象徴的である.
[参考文献]
1.Crutzen P.J. and Stoermer E.F. (2000) The Anthropocene. Global Change Newsletter, 41, 17 - 18.
2.https://www.hillheat.com/articles/2024/03/06/scientific-leaders-no-anthropocene-vote-was-a-sham
3. https://stratigraphy.org/news/152
“人新世”は,人類が地球の歴史や環境に決定的な影響をおよぼしている特別の地質時代として,オランダの大気化学者のPaul Jozef Crutzenによって提唱された1.その後,国際地球科学連合(IUGS)の下の人新世作業部会(AWG)で検討が重ねられ,2023年7月にカナダのクロフォード湖が人新世のGSSP候補地として発表された.“人新世”のはじまりは1950年とされた.1950年は,人類の社会経済活動が急激に活発化し,それに伴って地球の自然のシステムの変化の速度が大きく加速される年とされた.そして,境界認識のための主マーカーは,核実験に伴う放射性核種(239PUなど)の急増とされた.
“人新世”が正式の地質時代に認定されるためには,その上位の第四紀層序小委員会(SQS),国際層序委員会(ISC)の投票により60%以上の賛成が必要であり,最終的にはIUGS理事会での最終決定が必要である.2024 年2 月〜3 月初旬にSQSの投票が行われ反対12,賛成4,棄権3 で提案は否決された.否決の理由は,1950 年を起点とする人新世は,人類が地球に与えた影響の歴史としては短じかすぎるなどであった.しかし,その投票に対して不正があったとして,異議申し立てがなされた2が,その後ICSが投票の有効性を調査し,3 月21日付けでAWGの人新世否認投票結果を承認した3.これによって,“人新世”の地質時代否認が確定した.20 年以上にわたって検討されてきた“人新世”の正式地質時代設定は,否決された.
“人新世”の正式地質年代への認定は否決されたが,ICSの報告書には次のただし書きが付いている.『地質学的時間スケールの正式な単位としては却下されたものの,人新世は地球科学者や環境科学者だけでなく,社会科学者,政治家、経済学者、そして一般の人々にも使われ続けるだろう。人新世は,人類が地球システムに与えた影響を示す,かけがえのない言葉であり続けるだろう。』これは,“人新世”は正式の地質年代尺度ではないが,その基本的な概念は活きているということなる.“人新世”の年代幅は,今年も含めて74年である.この年代幅は,地球科学の門外漢である一般市民にとっても,普通の感覚で認識できる対象である.これは,従来からあった普段の生活と地質学的現象との時間的ギャップを埋めるために“人新世”が良い材料になることをしめしている.地球温暖化といったグローバルな現象をどうジオパークのテーマに取り込み,個々の地域で具体的に扱っていくかもジオパークの今後の課題となろう.日本ジオパークネットワークの企画「地球時間の旅展」で提示されている『未来を作る今の私たち』というフレーズは象徴的である.
[参考文献]
1.Crutzen P.J. and Stoermer E.F. (2000) The Anthropocene. Global Change Newsletter, 41, 17 - 18.
2.https://www.hillheat.com/articles/2024/03/06/scientific-leaders-no-anthropocene-vote-was-a-sham
3. https://stratigraphy.org/news/152
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