Presentation Information
[G-P-31]Occurrence of U-shaped trace fossils from the Bandodani Formation, Upper Cretaceous Izumi Group, southwest Japan
*Kazuki KIKUCHI1 (1. Faculty of Science and Engineering, Chuo University)
Keywords:
submarine fan deposits,frontal splay,ichnofacies,Late Cretaceous
徳島県鳴門市大毛島に分布する上部白亜系和泉層群板東谷層から,U字型のチューブの束からなる生痕化石が産出した.このU字型生痕化石は,裏打ちをもつU字型チューブの束であるという点では生痕化石Schaubcylindrichnusと類似するものの,後述するように裏打ちの構成粒子やチューブの内径分布は異なる.また,一般にSchaubcylindrichnusは陸棚以浅の浅海堆積物から特徴的に産出する一方,U字型生痕化石の産出層準の堆積環境は未報告である.そこで,本研究では大毛島に分布する板東谷層の堆積相解析を行った.そして,調査層準から産出したU字型生痕化石の形態観察とサイズ計測を行い,Nara(2006)が報告したSchaubcylindrichnusのトポタイプ標本と比較した.
U字型生痕化石の産出層準は,大毛島北東部の海岸に分布する.本地域の板東谷層は,砂岩優勢砂岩泥岩互層とで泥岩優勢砂岩泥岩互層が5–10 mの間隔で繰り返すことを特徴とする.砂岩優勢砂岩泥岩互層は,級化構造と平行葉理が観察され側方連続性の良い層厚0.2–2.0 mのタービダイト砂岩層と層厚0.01–0.2 mの塊状泥岩層によって構成される.砂岩層の下面には西方向の古流向を示すフルートキャストが観察される.下位の泥岩優勢砂岩泥岩互層との境界付近では,砂岩層の層厚が0.2 m程度から1.0 m程度に変化する上方厚層化が認められる.また,砂岩層からは海底扇状地の上流部の堆積環境に特徴的なOphiomorpha rudis生痕亜相(Uchman, 2009)に属する生痕化石が産出する.一方,泥岩優勢砂岩泥岩互層は層厚0.5–1 mの砂質泥岩層と層厚0.05 m以下の砂岩層からなる.以上の特徴から,本地域の板東谷層は海底扇状地のフロンタルスプレー堆積物と解釈される.U字型生痕化石は砂岩優勢砂岩泥岩互層を構成する8枚の砂岩層に限って産出する.
本地域から産出するU字型生痕化石は,U字型ないし弓型で砂岩が充填されたチューブと,黒色砂質泥岩によって構成された裏打ちからなる.チューブの伸長方向に平行な断面では,裏打ちの内部にチューブと平行または緩く斜交した葉理構造が観察される.チューブの片方の先端に,層理面に開口した漏斗状構造が見られることがある.また,裏打ちを除いたチューブの内径の範囲は3–12 mmであり,サイズごとにほぼ均一な頻度分布を示した.
U字型生痕化石の形態的特徴はSchaubcylindrichnusと類似するものの,Schaubcylindrichnusの裏打ちは一般に無色鉱物で構成されることが多い(Kikuchi et al., 2016など).一方,Evans and McIlroy(2016)は,Palaeophycus hebertiとSchaubcylindrichnusの形態の類似性を指摘し,P. hebertiの裏打ちに泥質堆積物が含まれることを報告した.このことから,本研究のU字型生痕化石も,Schaubcylindrichnus形成者と類似した生活様式の底生動物によって形成された可能性が高い.
U字型生痕化石の産出層準が限られ,チューブ内径の小さい個体数が少ないことは,形成者が本来の生息場から調査層準の堆積場に運搬され,定着せずに一時的に生痕を形成したことを示す.Schaubcylindrichnusの産出報告は陸棚以浅の浅海堆積物に集中し,深海堆積物からの報告はほとんどない(Nara, 2006).Nara(2006)が報告したトポタイプ標本のチューブ内径の分布の範囲は2–8 mmで,2–5 mmの小型個体の頻度が卓越する.トポタイプ標本と異なり,本研究のU字型生痕化石は各チューブ内径の頻度分布がほぼ均一だったことは,この堆積場で形成者が繁殖しなかったことを示唆する.今後は,U字型生痕化石の分類学的検討を行い,堆積場の古水深などの堆積環境をより詳細に復元して生痕化石相モデルにおける位置づけを検討する必要があるだろう.
引用文献
Evans, J.N. and McIlroy, D., 2016, Palaeogeogr., Palaeoclimatol., Palaeoecol., 449, 246–254.
Kikuchi, K.et al., 2016, Palaeogeogr., Palaeoclimatol., Palaeoecol., 443, 1–9.
Nara, M., 2006, Palaeogeogr., Palaeoclimatol., Palaeoecol. 240, 439–452.
Uchman, A., 2009, Palaeogeogr., Palaeoclimatol., Palaeoecol., 276, 107–119.
U字型生痕化石の産出層準は,大毛島北東部の海岸に分布する.本地域の板東谷層は,砂岩優勢砂岩泥岩互層とで泥岩優勢砂岩泥岩互層が5–10 mの間隔で繰り返すことを特徴とする.砂岩優勢砂岩泥岩互層は,級化構造と平行葉理が観察され側方連続性の良い層厚0.2–2.0 mのタービダイト砂岩層と層厚0.01–0.2 mの塊状泥岩層によって構成される.砂岩層の下面には西方向の古流向を示すフルートキャストが観察される.下位の泥岩優勢砂岩泥岩互層との境界付近では,砂岩層の層厚が0.2 m程度から1.0 m程度に変化する上方厚層化が認められる.また,砂岩層からは海底扇状地の上流部の堆積環境に特徴的なOphiomorpha rudis生痕亜相(Uchman, 2009)に属する生痕化石が産出する.一方,泥岩優勢砂岩泥岩互層は層厚0.5–1 mの砂質泥岩層と層厚0.05 m以下の砂岩層からなる.以上の特徴から,本地域の板東谷層は海底扇状地のフロンタルスプレー堆積物と解釈される.U字型生痕化石は砂岩優勢砂岩泥岩互層を構成する8枚の砂岩層に限って産出する.
本地域から産出するU字型生痕化石は,U字型ないし弓型で砂岩が充填されたチューブと,黒色砂質泥岩によって構成された裏打ちからなる.チューブの伸長方向に平行な断面では,裏打ちの内部にチューブと平行または緩く斜交した葉理構造が観察される.チューブの片方の先端に,層理面に開口した漏斗状構造が見られることがある.また,裏打ちを除いたチューブの内径の範囲は3–12 mmであり,サイズごとにほぼ均一な頻度分布を示した.
U字型生痕化石の形態的特徴はSchaubcylindrichnusと類似するものの,Schaubcylindrichnusの裏打ちは一般に無色鉱物で構成されることが多い(Kikuchi et al., 2016など).一方,Evans and McIlroy(2016)は,Palaeophycus hebertiとSchaubcylindrichnusの形態の類似性を指摘し,P. hebertiの裏打ちに泥質堆積物が含まれることを報告した.このことから,本研究のU字型生痕化石も,Schaubcylindrichnus形成者と類似した生活様式の底生動物によって形成された可能性が高い.
U字型生痕化石の産出層準が限られ,チューブ内径の小さい個体数が少ないことは,形成者が本来の生息場から調査層準の堆積場に運搬され,定着せずに一時的に生痕を形成したことを示す.Schaubcylindrichnusの産出報告は陸棚以浅の浅海堆積物に集中し,深海堆積物からの報告はほとんどない(Nara, 2006).Nara(2006)が報告したトポタイプ標本のチューブ内径の分布の範囲は2–8 mmで,2–5 mmの小型個体の頻度が卓越する.トポタイプ標本と異なり,本研究のU字型生痕化石は各チューブ内径の頻度分布がほぼ均一だったことは,この堆積場で形成者が繁殖しなかったことを示唆する.今後は,U字型生痕化石の分類学的検討を行い,堆積場の古水深などの堆積環境をより詳細に復元して生痕化石相モデルにおける位置づけを検討する必要があるだろう.
引用文献
Evans, J.N. and McIlroy, D., 2016, Palaeogeogr., Palaeoclimatol., Palaeoecol., 449, 246–254.
Kikuchi, K.et al., 2016, Palaeogeogr., Palaeoclimatol., Palaeoecol., 443, 1–9.
Nara, M., 2006, Palaeogeogr., Palaeoclimatol., Palaeoecol. 240, 439–452.
Uchman, A., 2009, Palaeogeogr., Palaeoclimatol., Palaeoecol., 276, 107–119.
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