Presentation Information
[G-P-40]Structure around the hinge line in eastern Kanagawa Prefecture based on gravity anomalies and crustal deformation (preliminary results)
*Ryosuke DOKE1, Hideki KUROSAWA2, Susumu KURAHASHI3, Yoshiki SATO4 (1. Hirosaki Univ., 2. OYO corp., 3. Aichi Inst. of Tech., 4. AIST)
Keywords:
gravity anomalies,hinge line,eastern Kanagawa Prefecture,crustal deformation
プレートの沈み込み帯で発生する地震に伴う隆起が長期間に渡って蓄積すると、陸地の海側に高まり(逆傾斜地形)が形成される。この変動域の陸側の末端部はヒンジラインと呼ばれ、凹地状の地形を呈する。沈み込み帯におけるヒンジラインの地球物理学的な意味としては、プレート境界断層の深部における固着域とクリープ領域の境界域を地表に投影した位置と考えられ(池田ほか、2001)、南海トラフ周辺の室戸岬における例では、地震時、地震後、地震間のいずれの時期においても、ヒンジライン周辺の地殻の上下変動成分がゼロに近いという特徴がある(鷺谷、1999)。したがって、ヒンジラインの位置・形状および周辺で発生する地殻変動は、プレート境界の深さや形状、その固着状況に関する情報をもたらすと考えられる。
神奈川県周辺においては、「秦野―横浜構造線」と呼ばれる東西方向に伸びる凹地状の地形が、後期更新世に相模川などによって形成された河成段丘面上に存在すること知られており、相模トラフからフィリピン海プレートが沈み込むことによって形成されたヒンジラインと考えられている(町田、1973)。一方で、このヒンジラインは、相模川の東西で大きく走向を変え、相模川以東の神奈川県東部では、北西―南東走向の相模トラフの走向と大きく斜向し、東北東―西南西走向となる。こうしたヒンジラインの特徴は、伊豆半島衝突によるプレート境界の屈曲や、相模トラフにおけるフィリピン海プレートの斜め沈み込みなど、この地域の複雑なテクトニクスを反映している可能性がある。また、2000年代以降、地震・測地学的な研究の進展により、関東地震時の断層モデルや、相模湾周辺地域のプレート構造に関する理解が進んでおり(Kobayashi and Koketsu, 2005; Abe et al., 2023など)、そこから推定される沈み込み様式と、地形・地質などから得られる情報を関連づけることにより、この地域で繰り返し発生する関東地震など、首都圏直下を襲う地震の具体像を明らかにすることが急務である。
本研究では、神奈川県周辺に位置するヒンジラインの構造・成因について、様々なデータを用いて、異なる時間スケールにおける変動から理解することを目指している。本発表では、予察的に実施した重力異常データの解析と干渉SAR地殻変動解析から推測される地下構造と定常時の地殻変動について報告する。
重力異常データの解析については、産業技術総合研究所の日本重力データベースに収録されているブーゲー異常グリッドデータ(補正密度2.0g/cm3)を使用した。相模川の河口付近を南西端として、東西23km南北20kmの範囲を対象に、上方接続フィルター処理を適用し、ノイズ成分(30m以浅の構造に起因すると考えられるもの)とトレンド成分(400m以深の構造に起因すると考えられるもの)を除去した重力異常分布を取得した。さらに第四紀中〜後期更新世の相模層群相当層の密度を1.6g/cm3と仮定し、それ以深の新第三系(上総層群、三浦層群相当層)の密度を2.0g/cm3と仮定し、その境界面の分布高度を推定した。その際、相模層群の基底面が確認されている既存のボーリングデータを参照し、その基底面深度を拘束条件とした。以上の解析の結果、相模層群相当層の基底面の分布は、標高値で、–30〜–300m 程度であった。その分布は、相模川沿いで極端に深くなるが、それに直交する概ね東西方向に伸びる向斜状の構造も認められ、町田(1973)が指摘したヒンジラインの構造に対応すると思われる。加えて、神奈川県藤沢市付近の沖積低地下には、基底面深度の変化が認められ、伏在する活構造の存在が示唆される。
また、この地域の定常時の地殻変動速度を把握するため、 Sentinel-1データを用いた干渉SAR時系列解析(PS法)を実施した。その結果、神奈川県東部地域においては、海側が相対的に沈降する地殻変動が検出された。これは、相模湾におけるフィリピン海プレートの沈み込みに伴うものと考えられる。この地殻変動の傾向の変化とヒンジライン周辺の構造との関係について、今後、議論を進めていく予定である。
なお、今後は、既存ボーリング資料の収集・解析、現地における地形・地質調査、微動アレイ探査による浅部から深部における地下構造の推定、断層モデル構築による変動シミュレーション解析などを予定しており、総合的に本地域のテクトニクスについて検討を行っていく予定である。
引用文献
Abe et al. (2023) JGR Solid Earth, 128, e2022JB026314.
池田ほか(2001)地学雑誌,110,544-556.
Kobayashi & Koketsu (2005) EPS, 57, 261-270.
町田(1973)地学雑誌,82,53-76.
鷺谷(1999)月刊地球,号外,24,26-33.
神奈川県周辺においては、「秦野―横浜構造線」と呼ばれる東西方向に伸びる凹地状の地形が、後期更新世に相模川などによって形成された河成段丘面上に存在すること知られており、相模トラフからフィリピン海プレートが沈み込むことによって形成されたヒンジラインと考えられている(町田、1973)。一方で、このヒンジラインは、相模川の東西で大きく走向を変え、相模川以東の神奈川県東部では、北西―南東走向の相模トラフの走向と大きく斜向し、東北東―西南西走向となる。こうしたヒンジラインの特徴は、伊豆半島衝突によるプレート境界の屈曲や、相模トラフにおけるフィリピン海プレートの斜め沈み込みなど、この地域の複雑なテクトニクスを反映している可能性がある。また、2000年代以降、地震・測地学的な研究の進展により、関東地震時の断層モデルや、相模湾周辺地域のプレート構造に関する理解が進んでおり(Kobayashi and Koketsu, 2005; Abe et al., 2023など)、そこから推定される沈み込み様式と、地形・地質などから得られる情報を関連づけることにより、この地域で繰り返し発生する関東地震など、首都圏直下を襲う地震の具体像を明らかにすることが急務である。
本研究では、神奈川県周辺に位置するヒンジラインの構造・成因について、様々なデータを用いて、異なる時間スケールにおける変動から理解することを目指している。本発表では、予察的に実施した重力異常データの解析と干渉SAR地殻変動解析から推測される地下構造と定常時の地殻変動について報告する。
重力異常データの解析については、産業技術総合研究所の日本重力データベースに収録されているブーゲー異常グリッドデータ(補正密度2.0g/cm3)を使用した。相模川の河口付近を南西端として、東西23km南北20kmの範囲を対象に、上方接続フィルター処理を適用し、ノイズ成分(30m以浅の構造に起因すると考えられるもの)とトレンド成分(400m以深の構造に起因すると考えられるもの)を除去した重力異常分布を取得した。さらに第四紀中〜後期更新世の相模層群相当層の密度を1.6g/cm3と仮定し、それ以深の新第三系(上総層群、三浦層群相当層)の密度を2.0g/cm3と仮定し、その境界面の分布高度を推定した。その際、相模層群の基底面が確認されている既存のボーリングデータを参照し、その基底面深度を拘束条件とした。以上の解析の結果、相模層群相当層の基底面の分布は、標高値で、–30〜–300m 程度であった。その分布は、相模川沿いで極端に深くなるが、それに直交する概ね東西方向に伸びる向斜状の構造も認められ、町田(1973)が指摘したヒンジラインの構造に対応すると思われる。加えて、神奈川県藤沢市付近の沖積低地下には、基底面深度の変化が認められ、伏在する活構造の存在が示唆される。
また、この地域の定常時の地殻変動速度を把握するため、 Sentinel-1データを用いた干渉SAR時系列解析(PS法)を実施した。その結果、神奈川県東部地域においては、海側が相対的に沈降する地殻変動が検出された。これは、相模湾におけるフィリピン海プレートの沈み込みに伴うものと考えられる。この地殻変動の傾向の変化とヒンジライン周辺の構造との関係について、今後、議論を進めていく予定である。
なお、今後は、既存ボーリング資料の収集・解析、現地における地形・地質調査、微動アレイ探査による浅部から深部における地下構造の推定、断層モデル構築による変動シミュレーション解析などを予定しており、総合的に本地域のテクトニクスについて検討を行っていく予定である。
引用文献
Abe et al. (2023) JGR Solid Earth, 128, e2022JB026314.
池田ほか(2001)地学雑誌,110,544-556.
Kobayashi & Koketsu (2005) EPS, 57, 261-270.
町田(1973)地学雑誌,82,53-76.
鷺谷(1999)月刊地球,号外,24,26-33.
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