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[T2-O-4][Invited] Episyenite in Japan: Discovery and Geological Significance
*Shoji NISHIMOTO1 (1. Aichi Univ.)
【ハイライト講演】 エピ閃長岩(episyenite)は,国内ではあまり知られていない岩石ですが,熱水変質岩の一種で,特に花崗岩の熱水変質過程を理解する上で重要な研究対象です.国内初のエピ閃長岩の研究報告は,岐阜県瑞浪市で掘削された花崗岩ボーリングコア中から発見されたものについてです (Nishimoto et al., 2014).本講演では,その発見者である西本昌司氏に,発見に至るまでの経緯や地質学的意義などについて紹介していただきます. ※ハイライト講演とは...
Keywords:
episyenite,granite,hydrothermal alteration,quartz dissolution,albitization
エピ閃長岩(episyenite)とは、花崗岩類が熱水変質によって石英が選択的に溶解することにより、元の構造を保ったまま曹長石(アルバイト)が主体の閃長岩質となった熱水変質岩である。大陸地殻における水-岩石反応のひとつであり、直接マグマの固結によりできたのではない後生的(epigenetic)な閃長岩であることから、ギリシャ語の「後に、上に」という意味の接頭語「epi」を付けて「エピ閃長岩」と呼ばれる。
エピ閃長岩は、U、Sn、Au, REEなどの鉱化作用を伴っていることが多く、ヨーロッパなどでは資源探査の点から研究が行われてきた(例えば, Cathelineau, 1986)。スウェーデンでは、放射性廃棄物地層処分の適地評価の点からも注目された。このためエピ閃長岩はヨーロッパを中心とした報告が多く、古いクラトンや造山帯で見出されたものばかりであった。
ところが、日本原子力研究開発機構が岐阜県瑞浪市で掘削したボーリングコア(深さ約950m付近)からエピ閃長岩が発見された(Nishimoto et al., 2014)。これが日本のみならず島弧における初めてのエピ閃長岩の報告である。このエピ閃長岩は空隙率が35%にも達するほどの多孔質で、その空隙中にはバーミキュラー緑泥石や板状方解石が特徴的に認められた。Rb-Sr鉱物アイソクロンにより、土岐花崗岩がマグマ固結(76.3±1.5Ma)してから数百万年後(70.6±3.1Ma)に熱水変質を受けて形成されたと推定され、これまでに報告されている中で最も若いエピ閃長岩と言える。空隙中の石英とイライトは、組織とRb-Sr同位体比からエピ閃長岩化後の析出物と考えられ、それらの量はわずかでしかなく空隙率がかなり高いことから、エピ閃長岩形成時の状態をかなり残している可能性が高い。
西南日本内帯の白亜紀花崗岩類中には,閃長岩類が点在することが以前から知られており,初生的ではなく「交代性閃長岩」と考えられていた(村上, 1976)。最近になって、愛媛県岩城島に産する「交代性閃長岩」がエピ閃長岩化作用により形成された可能性が指摘された(Imaoka et al., 2024)。さらに、愛媛県伯方島においてもエピ閃長岩が報告された(福井・齊藤, 2025)。このように西南日本内帯の花崗岩類中にエピ閃長岩の存在が認識されるようになってきた。多様なエピ閃長岩の岩石学的特徴が明らかになれば、熱水変質を引き起こした流体組成の違いや、エピ閃長岩化(石英溶脱)後の鉱化作用を含めた交代作用についても理解が深まるだろう。日本におけるエピ閃長岩は比較的形成年代が新しいので、各段階の年代差データが得やすいと考えられ、エピ閃長岩化を含めた花崗岩体の上昇・冷却過程における熱水変質プロセス、そして、大陸地殻内部における水の挙動や水-岩石相互作用の理解につながっていくことが期待される。
文献
Cathelineau, M. (1986) The hydrothermal alkali metasomatism effects on granitic rocks: Quartz dissolution and related subsolidus changes. Journal of Petrology, 27, 945-965.
福井堂子・齊藤哲(2025) 愛媛県芸予諸島,伯方島に産するエピ閃長岩. 地質学雑誌 131,
Imaoka, T., Akita, S., Ishikawa, T., Tani, K., Kimura, J., Chang, Q., Nagashima, M. (2024) Petrogenesis of an Episyenite from Iwagi Islet, Southwest Japan: Unique Li–Na Metasomatism during the Turonian. Minerals 14, 929. https://doi.org/10.3390/min14090929
村上允英(1976) 本邦産交代性閃長岩質岩石中の鉱物共生. 岩石鉱物鉱床学会誌, 71 特別号 261-281.
Nishimoto, S., Yoshida, H., Asahara, Y., Tsuruta, T., Ishibashi, M., Katsuta, N. (2014) Episyenite formation in the Toki granite, central Japan. Contributions to Mineralogy and petrology, 167, 960. https://doi.org/10.1007/s00410-013-0960-8
