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[T7-O-15]Heterogeneity in porosity and permeability of the Lower Cretaceous tidal flat carbonates, driven by the interplay of paleoclimate changes, sedimentary and diagenetic processes, and oil field formation

*Kazuyuki Yamamoto1, Hiroki MONTANI1, Jawaher ALSABEAI2, Suad ALSHAMSI2, Goitse MOSEKIEMANG3, Hideko TAKAYANAGI3, Yasufumi IRYU3 (1. INPEX Corporation, 2. ADNOC Offshore, 3. Tohoku University)
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【ハイライト講演】  油田開発では、石油を貯留する地層の不均質性を理解することは、合理的な開発計画を考える上で最も重要な要素の一つである。本研究は、干潟炭酸塩岩の堆積環境による岩相変化と、その後の続成作用による各岩相の孔隙率、浸透率の増加、減少の両方の作用を詳細に検討し、地層の不均質性を包括的に解明しており、有益な洞察を与えるものである。 ※ハイライト講演とは...

Keywords:

Tidal flat carbonates,Lower Cretaceous,Giant oil field,Karstification,Evaporative dolomite


 ジュラ紀~白亜紀のアラビアプレート上では,浅海性炭酸塩プラットフォーム堆積物が厚く堆積し,それらを貯留岩とする油田が多数形成されている.その中の一つであるアラブ首長国連邦の巨大油田では,下部白亜系ベリアシアン階干潟炭酸塩岩(Tidal flat carbonates)が貯留層の一部を構成している.本研究で検討した層位区間(層厚約140 m)では,数メートル以下の層厚で貯留層と非貯留層が互層する単純な構造にも関わらず,貯留岩の不均質性により油田内の流体挙動は非常に複雑で,その地質的要因の理解はあまり進んでいなかった.そこで本研究では,油田のコア試料,岩石薄片,孔隙率・浸透率データを用いて,貯留岩の不均質性の要因解明を試みた.その結果,干潟炭酸塩岩の岩相層序は,潮下帯~潮上帯の堆積物が上方浅海化を示す堆積サイクルで構成されることが分かった.層位区間下部はドロマイト化しており,ドロマイトの含有量は上位に向かって増減を繰り返しながら減少し,上部では石灰岩が主体となっている.石灰岩にはカルスト化による陸水続成作用が普遍的に認められる一方,苦灰岩は硬石膏ノジュールを伴い,蒸発性ドロマイト化作用を受けたことが示唆される.この岩相変化は,アラビアプレート上の古気候が,ジュラ紀に卓越していた乾燥気候から白亜紀に卓越する湿潤気候へ移行する過渡期を反映していると考えられる.貯留層石灰岩は,ワッケストーンやパックストーンを主体とし,一部にグレインストーンを伴う相対的に高エネルギーの潮下帯~潮間帯環境で堆積したと考えられる.一方,非貯留層石灰岩は,ワッケストーンやマッドストーンを主体とし,生砕物粒子に乏しい相対的に低エネルギーの潮間帯~潮上帯環境で堆積したと考えられ,化学圧密とセメンテーション(膠結作用)が進んでいる.しかしながら,これらの石灰岩の岩相と孔隙率・浸透率には必ずしも明瞭な関係が認められない.岩石組織の解析結果から,その原因は1)カルスト化に伴う溶解孔隙・フラクチャーの発達による孔隙率・浸透率の増加,2)生砕物粒子のモールド孔隙の発達による孔隙率の増加,3)化学圧密・セメンテーションによる孔隙率・浸透率の低下,の3つの続成作用により各岩相の孔隙率・浸透率が大きく改変されたためであることが分かった.石灰岩には陸上干出に伴うカルスト化が普遍的に認められるが,堆積サイクルを跨いで垂直方向に大規模に広がるカルスト化は認められない.これはオートサイクリックな堆積プロセスや,温室期だったベリアシアン期における小振幅の海水準変動が要因となり,干潟炭酸塩岩は頻繁ではあるが,ごく短期間しか干出していないことを示している.このことから,カルスト化による溶解孔隙・フラクチャーの発達は,主に水平方向の貯留岩の不均質性を形成していると考えられる.貯留岩の孔隙率・浸透率を低下させている主要因は化学圧密・セメンテーションであり,これらは岩相と炭化水素効果の2つの要因に依存している.まず岩相に関しては,ミクライト質の基質に富むワッケストーンやマッドストーンで化学圧密・セメンテーションがより進行している傾向が認められる.炭化水素効果に関しては,油の胚胎が遅れた,あるいは胚胎していないドーム状油田構造の翼部で化学圧密・セメンテーションによる孔隙率・浸透率の低下が進んでいる.グレインストーンやカルスト化による溶解孔隙・フラクチャーが発達する岩相は構造翼部でも広く認められるものの,それらの孔隙率・浸透率はセメンテーションで大きく低下している.一方,層位区間下部で卓越する苦灰岩の孔隙率・浸透率のコントロール要因は,石灰岩のそれとは大きく異なり,古気候や局所的な水理条件による高塩分海水の形成と供給が主な要因である.石灰岩の基質のミクライトが粒径の大きなドロマイトの結晶で交代されることにより浸透率は改善される一方,高塩分海水の供給過剰でドロマイト化が進行しすぎると,ドロマイトのセメンテーションにより孔隙率・浸透率は大きく低下する.苦灰岩と石灰岩は数メートルの層厚で互層しており,蒸発性ドロマイト作用は地表面下で周期的に起きたことが示唆される.また,石灰岩とは異なり,ドロマイトはカルサイトよりも化学圧密を受けにくいため,油田構造の頂部と翼部で苦灰岩の孔隙率・浸透率に有意な差は認められない.本研究により,古気候変動を反映した堆積・続成作用が,表層環境で貯留岩の不均質性をどのように形成したのか,さらに埋没後の油田形成過程で,その不均質性がどのように変化したのかを包括的に解明した.この成果は,油田内の複雑な流体挙動を3次元貯留層モデルで表現する際に必要な地質的理解を深めただけでなく,干潟炭酸塩岩を貯留岩とする他の油ガス田の探鉱・開発や二酸化炭素の地下貯留にも有益な洞察を提供するものと期待される.