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[スポーツ文化-B-11]伝統芸能の身体教育における「なぞり」と「さぐり」の構造に関する研究(社)

*Toshimichi Sako1 (1. Osaka University of Commerce)
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「日本の芸道で習得すべきものは、もともと単元に分割できるものでもなく、明確な言葉で目標を語れるものでもなく、ただ理想事例を手本にその活動の全体を身をもってなぞるほか仕方のないもの」(尼ヶ崎『ことばと身体』勁草書房、1990年)と表されている。「なぞり」は学習者が指導者の模範例を習う際の方法として論じられてきた。
 本報告者は日本の芸道の伝承者(指導者、学習者)の間で展開される相互作用に関して、伝承に付随する段階性の概念を分析してきた。指導者と学習者の相互作用の中で学習者が新たな身体所作を獲得した瞬間においては、指導者は学習者に次の新たな段階へと進む課題を提示することがわかった。この段階性の生成には、指導者、学習者で展開される「なぞり」という相互作用が影響している。
 さらに本報告者は伝統芸能の「神楽」の参与観察を行い、指導・学習過程について調査研究を行ってきた。その結果、学習者が指導者の模範演技を「なぞる」だけではなく、指導者もまた学習者の動きを「なぞる」行為が確認された。また、指導者は自身の身体を用いて、学習者の技芸の正否の確認、検証を行っており、「なぞり」では説明が困難な事象が浮かび上がった。それは指導者が学習者の躓きを「探る」行為(さぐり)と推測出来た(「さぐり」とは、本報告者が「なぞり」の概念を踏まえて創り出した造語である)。
 本研究では指導者と学習者による「なぞり」と「さぐり」が、伝統芸能の稽古の場面においてどのように現出しているのかを描出し、「なぞり」と「さぐり」の相互性に関して考察を行った。実際の伝承活動では指導者が学習者に身体所作を教える際、学習者が直面している課題は何か、指導者はその要因を探るために様々な試みを行っている。学習者もまた「さぐる」行為を行っているが、指導者と学習者の「さぐり」には相違がある。本研究はJSPS科研費JP19K11609の助成を受けた。

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