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[11教-口-26]武道の一般理論に基礎付けられた剣道授業の学習指導試論
*Hiroki Chiba1, Osamu Suzuki1 (1. Nihon Univ.)
本研究は、保健体育科「武道」領域における剣道指導を対象に、個別技術の習得を越えて、身体的関係性の構築を中核とする授業デザインの理論的基盤を検討するものである。近年の学習指導要領では、各運動領域に通底する原理の学習が求められているが、現実の授業ではなお個別種目の「動き方」の伝達・習得に執心する傾向が強く、剣道においても「面打ち」や「小手打ち」といった動作の再現が目的化されるケースが多い。しかし、武道は元来、自己と他者との間に生起する応答的・状況的な関係性の構築を本質とする文化的身体技法である。すなわち、対峙する相手とせめぎ合う場としての「中間局面」において発動する駆け引きや制御こそが、武道の核心であると考えられる。したがって、この局面における身体的やり取りの意味了解がなければ、有効打突の意味もまた成立し得ない。また、武道史的にみれば、殺傷術としての武術は、江戸期以降、他者との応答的在り方を軸とした内面化と精神性の体系へと変容した。その過程で、武道は単に暴力を否定するのではなく、人間的・倫理的に制御する「暴力の媒介装置」として再機能化された。この変容は、武道を単なる競技的技術に還元せず、身体の倫理的構造として捉える視点を準備する。本研究は、剣道を個別種目としてではなく、対人的緊張関係の中で自己を調整し、他者との共振のうちに「応答的自己」を構築する身体実践として捉え直す。体育授業においては、こうした応答性と間主観的構造に根ざす学びを設計原理とすることで、武道領域に固有の指導内容が構成される。今後は、種目主義を超克し、関係論的・身体論的な一般理論の確立を視野に入れた実践的知見の蓄積が課題となる。
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