Presentation Information
[P06-12]The model of an elastic property-dependent seismogenic zone in the subduction zone
*Shinichiro Taka1, Yohei HAMADA2, Hanaya OKUDA2, Yoshihiko TAMURA2, Arito SAKAGUCHI1 (1. Yamaguchi University Guraduate School of Science and Technology for Innovation, 2. Japan Agency for Marin-Earth Science and Technology)
・序論
沈み込み帯における巨大地震の発生範囲は、プレート境界の温度にして約150℃から350℃に相当すると考えられている(Hyndman and Wang, JGR, 1995)。下限側の約350℃は、石英の延性変形が卓越する温度に対応すると解釈されている。一方で上限150℃の要因については未だ明確な結論が得られていない。たとえば、未固結堆積物中の粘土鉱物の脱水反応の進行に伴い、断層面のすべり挙動が速度強化から速度弱化に遷移するためという議論がある(Scholz, Nature, 1998; Ikari et al., JGR, 2007)。しかし、2011年の東北地方太平洋沖地震では、浅部領域でも大規模な地震性すべりが発生した(Ide et al., Science, 2011など)。また、室内における岩石の高速剪断試験では、様々な種類の岩石が高速度域では速度弱化することが報告されている(Di Toro et al., Nature, 2011)。これらの知見は、断層は150℃よりも低温の領域でも速度弱化することを示しており、地震発生帯の上限は摩擦面の速度依存性のみで一義的に規定されないことを示唆する。断層が安定すべりをするのか、不安定すべりをするのかは、断層の速度弱化特性と、系全体の弾性特性によって決まる。しかし、沈み込み帯震源域における弾性特性分布は、これまで体系的に調査されてこなかった。
本研究では、西南日本の四万十帯における過去の震源深度を経験した岩石、および沈み込む前の海洋地殻としてマリアナ島弧の現世海洋底の岩石を対象として、封圧下でのヤング率を測定した。これにより、沈み込み帯震源域の弾性特性を系統的に評価する。
・手法
岩石試料を高さ50 mm、直径25 mmの円柱形に成型加工した。圧縮試験には高知コア研究所に既設のK0三軸圧密圧縮試験装置(誠研舎製)を使用した。本研究では、封圧40 MPa、載荷速度約0.0417 mm/min、最大垂直応力100 MPaの条件下でドライ状態における圧縮試験を実施した。
・結果
沈み込み帯の上盤を構成する堆積岩として、砂岩および泥岩を対象に、古地温約110℃から320℃の四国中西部地域・九州東部延岡地域から計24試料を測定した。沈み込み帯の下盤の海洋地殻を構成する岩石として、四国中西部地域・九州東部延岡地域から3試料、マリアナ島弧の海洋底露頭から2試料を測定した。
四国中西部地域・九州東部延岡地域のほとんどの堆積岩のヤング率は、55.26±4.67 GPaの範囲に集中した。これらの岩石は、地震発生深度の上限から下限に相当する深度のものであるが、ヤング率は古地温に関係なくほぼ一定であった。その一方で、古地温が約110℃と低い地域の岩石だけはヤング率42.76 GPa前後であり、他より顕著に低い値であった。堆積岩のVpは4.4-5.9 km/s、Vsは2.7-3.6 km/s、密度は2.61-2.72 g/cm3、間隙率は1.04-2.06%、ポアソン比は0.20-0.25であった。こちらもほとんどの場所ではほぼ同じ値であり、それは既存研究(Okuda et al., PEPS, 2025)と整合的であった。ただし、古地温が約110℃と低い地域の岩石だけはVpは4.7 km/s、Vsは2.8 km/s、間隙率2.76%となった。
海洋地殻の岩石としては、四国中西部や九州東部の四万十帯に分布する玄武岩のヤング率は54 GPaから74 GPaであった。マリアナ島弧の玄武岩質安山岩のヤング率は54 GPa以上であった。これらのVpは4.8-6.5 km/s、Vsは2.8-3.6 km/s、密度は2.63-2.91 g/cm3、間隙率は0.60-4.15%、ポアソン比は0.26-0.31であった。
・考察
以上の事から沈み込み帯の上盤地殻と下盤地殻は、それぞれ異なる弾性構造を持つと考えられる。下盤の海洋地殻の玄武岩は、沈み込む前から54〜58 GPaの高いヤング率を示し、沈み込んだ後も、地温210℃付近で約54 GPa、更に深い領域ではそれよりも高いヤング率を示すが、一貫して高い値である。これに対して上盤地殻では、浅部の未固結堆積物のヤング率はおそらく極めて低い。これが温度にして約110℃付近で約43GPaになり、地温約150℃付近で約55GPaに到達して、地震発生帯である約150℃~320℃の間ではこの高いヤング率が一定のまま保たれる。すなわち地温150℃以下の浅部では、低弾性率の上盤と高弾性率の下盤という非対称な組み合わせになる。この場合、もしもプレート境界が固着していたとしても、弾性率の小さい上盤地殻が選択的に歪み、下盤の海洋地殻はほとんど歪まないだろう。ただし上盤の弾性率は小さいため応力レベルは低く、大きな地震にはならないと考えられる。一方で地温が150℃以上の深部になると、上盤と下盤の弾性率が同等に高くなるため、両方の岩盤が大きく歪み、かつ高い応力レベルになると予想される。そのためたとえ浅部からプレート境界が固着し始めたとしても、上盤のヤング率が上昇する地温150℃以上にならなければ大地震は起こせないと考えられる。すなわち、約150℃の地温で上盤の弾性率が高くなることが、沈み込み帯の地震発生域の上限を決めているのかもしれない。
沈み込み帯における巨大地震の発生範囲は、プレート境界の温度にして約150℃から350℃に相当すると考えられている(Hyndman and Wang, JGR, 1995)。下限側の約350℃は、石英の延性変形が卓越する温度に対応すると解釈されている。一方で上限150℃の要因については未だ明確な結論が得られていない。たとえば、未固結堆積物中の粘土鉱物の脱水反応の進行に伴い、断層面のすべり挙動が速度強化から速度弱化に遷移するためという議論がある(Scholz, Nature, 1998; Ikari et al., JGR, 2007)。しかし、2011年の東北地方太平洋沖地震では、浅部領域でも大規模な地震性すべりが発生した(Ide et al., Science, 2011など)。また、室内における岩石の高速剪断試験では、様々な種類の岩石が高速度域では速度弱化することが報告されている(Di Toro et al., Nature, 2011)。これらの知見は、断層は150℃よりも低温の領域でも速度弱化することを示しており、地震発生帯の上限は摩擦面の速度依存性のみで一義的に規定されないことを示唆する。断層が安定すべりをするのか、不安定すべりをするのかは、断層の速度弱化特性と、系全体の弾性特性によって決まる。しかし、沈み込み帯震源域における弾性特性分布は、これまで体系的に調査されてこなかった。
本研究では、西南日本の四万十帯における過去の震源深度を経験した岩石、および沈み込む前の海洋地殻としてマリアナ島弧の現世海洋底の岩石を対象として、封圧下でのヤング率を測定した。これにより、沈み込み帯震源域の弾性特性を系統的に評価する。
・手法
岩石試料を高さ50 mm、直径25 mmの円柱形に成型加工した。圧縮試験には高知コア研究所に既設のK0三軸圧密圧縮試験装置(誠研舎製)を使用した。本研究では、封圧40 MPa、載荷速度約0.0417 mm/min、最大垂直応力100 MPaの条件下でドライ状態における圧縮試験を実施した。
・結果
沈み込み帯の上盤を構成する堆積岩として、砂岩および泥岩を対象に、古地温約110℃から320℃の四国中西部地域・九州東部延岡地域から計24試料を測定した。沈み込み帯の下盤の海洋地殻を構成する岩石として、四国中西部地域・九州東部延岡地域から3試料、マリアナ島弧の海洋底露頭から2試料を測定した。
四国中西部地域・九州東部延岡地域のほとんどの堆積岩のヤング率は、55.26±4.67 GPaの範囲に集中した。これらの岩石は、地震発生深度の上限から下限に相当する深度のものであるが、ヤング率は古地温に関係なくほぼ一定であった。その一方で、古地温が約110℃と低い地域の岩石だけはヤング率42.76 GPa前後であり、他より顕著に低い値であった。堆積岩のVpは4.4-5.9 km/s、Vsは2.7-3.6 km/s、密度は2.61-2.72 g/cm3、間隙率は1.04-2.06%、ポアソン比は0.20-0.25であった。こちらもほとんどの場所ではほぼ同じ値であり、それは既存研究(Okuda et al., PEPS, 2025)と整合的であった。ただし、古地温が約110℃と低い地域の岩石だけはVpは4.7 km/s、Vsは2.8 km/s、間隙率2.76%となった。
海洋地殻の岩石としては、四国中西部や九州東部の四万十帯に分布する玄武岩のヤング率は54 GPaから74 GPaであった。マリアナ島弧の玄武岩質安山岩のヤング率は54 GPa以上であった。これらのVpは4.8-6.5 km/s、Vsは2.8-3.6 km/s、密度は2.63-2.91 g/cm3、間隙率は0.60-4.15%、ポアソン比は0.26-0.31であった。
・考察
以上の事から沈み込み帯の上盤地殻と下盤地殻は、それぞれ異なる弾性構造を持つと考えられる。下盤の海洋地殻の玄武岩は、沈み込む前から54〜58 GPaの高いヤング率を示し、沈み込んだ後も、地温210℃付近で約54 GPa、更に深い領域ではそれよりも高いヤング率を示すが、一貫して高い値である。これに対して上盤地殻では、浅部の未固結堆積物のヤング率はおそらく極めて低い。これが温度にして約110℃付近で約43GPaになり、地温約150℃付近で約55GPaに到達して、地震発生帯である約150℃~320℃の間ではこの高いヤング率が一定のまま保たれる。すなわち地温150℃以下の浅部では、低弾性率の上盤と高弾性率の下盤という非対称な組み合わせになる。この場合、もしもプレート境界が固着していたとしても、弾性率の小さい上盤地殻が選択的に歪み、下盤の海洋地殻はほとんど歪まないだろう。ただし上盤の弾性率は小さいため応力レベルは低く、大きな地震にはならないと考えられる。一方で地温が150℃以上の深部になると、上盤と下盤の弾性率が同等に高くなるため、両方の岩盤が大きく歪み、かつ高い応力レベルになると予想される。そのためたとえ浅部からプレート境界が固着し始めたとしても、上盤のヤング率が上昇する地温150℃以上にならなければ大地震は起こせないと考えられる。すなわち、約150℃の地温で上盤の弾性率が高くなることが、沈み込み帯の地震発生域の上限を決めているのかもしれない。
