Presentation Information
[P25-06]Far-Field Tsunami Propagation Generated by the 2025 Kamchatka Peninsula Earthquake (Mw 8.8)
*Masayoshi Someya1,2,3, Osamu Sandanbata1, Shingo Watada1, Takashi Furumura1 (1. Earthquake Research Institute, The University of Tokyo, 2. JSPS Research Fellowship (DC1), 3. Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology)
1.はじめに
2010年のチリ・マウレ地震や2011年の東北地方太平洋沖地震では、太平洋を横断する津波が深海津波計DARTによって詳細に記録された。これらのイベントでは、遠地における津波到達が線形長波理論に基づく予測よりも遅れることが報告された。Watada et al. (2014)は、従来の線形長波理論では無視されてきた(1)地殻の弾性変形、(2)海水の圧縮性と密度成層、(3)質量移動に伴う重力ポテンシャルの変化、などの物理効果(以下、副次的効果と呼ぶ)を考慮することで、遠地津波の到達の遅れを説明した。
2025年7月30日8時25分(日本時間)ごろ、カムチャツカ半島沖でMw8.8の地震が発生し、太平洋を横断する津波がDARTによって記録された。本発表では、今回の地震においても遠地での津波の遅れが確認されたこと、それが副次的効果によってほぼ説明可能であることを示す。また、USGSによる遠地地震波に基づく断層モデルから計算された波形と実際の観測波形を比較し、すべり域の拘束を試みる。さらに、先行研究で推定された1952年カムチャツカ地震の断層モデルについて、津波の副次的効果を考慮した再解釈の必要性を議論する。
2.データと手法
UNESCO-IOCのHP(*1)およびNOAAのHP(*2)から、60秒サンプリングのDARTデータを取得した。多項式フィッティングにより潮汐成分を近似し、元の記録から除去することで、津波の信号を抽出した。
津波シミュレーションでは、線形長波計算に加え副次的効果を考慮した計算も実装されているJAGURSを使用した(Baba et al. 2015, Allgeyer & Cummins 2014, Baba et al. 2017)。USGSの有限断層モデル(*3)のversion 1-4を用いて海底変位をOkada (1985)の式で計算し、津波シミュレーションの初期条件とした。時間刻み幅は1秒とし、地震発生から28時間後までの津波の伝播を計算した。断層破壊の進行や立ち上がり時間を考慮せず、瞬時に海面変動が発生すると仮定した。使用した水深データは、GEBCO 2025の15秒角グリッドを60秒角に間引いたもので、ネスティングは行わず単一のグリッド系を用いた。計算は東大情報基盤センターのスパコンシステムWisteria-aにおいて、MPI(4ノード・16プロセス)とOpenMP(18スレッド)によるハイブリッド並列計算により行った。
3.結果
線形長波方程式に基づくシミュレーションは、観測に比べて津波の到達時刻を早く評価し、遠地では最大20分程度の差が生じた。一方で、副次的効果を組み込んだシミュレーションでは、この差は最大10分程度まで縮小した。
USGSの有限断層モデル(v1–4)に基づき副次的効果を考慮した計算波形と観測波形を比較すると、方位依存的な特徴が確認された;波源東側(アリューシャン~北米・中南米)では、v1・v3・v4は到達を早く評価した一方、v2は位相が観測と良く一致したが振幅を過小評価した。波源南側ではv4、波源西側ではv1が振幅・位相ともに良好に一致した。このことから、v4のようにすべり域は海溝軸にまでは達していないこと、一方でv4で推定された北東側の大すべり域は津波波形を説明する上で不要であることが示唆された。
4.議論
カムチャツカ半島沖では、1952年にもMw9.0の巨大地震が発生している。Johnson and Satake (1999)は、太平洋各地の検潮記録に基づいて断層モデルを推定し、半島直下の陸側に大きなすべりを伴うモデルを提唱した。しかし、当時は副次的効果による津波の到達遅れが認識されていなかったため、北米西岸やハワイなど遠地で観測された遅れを説明するために、断層位置が海溝軸から陸側へずれたモデルが採用された可能性がある(太平洋の平均水深から計算される津波速度を約0.2 km/sとすると、例えば到達時刻の10分の遅れは震源の水平位置で約120 kmに相当する)。
本研究の結果から、副次的効果を考慮すると、1952年の地震の震源断層は従来考えられていたよりも海溝軸に近かった可能性が示唆され、2025年の地震とほぼ同じ場所で発生していた可能性も否定できない。オホーツクプレートに対する太平洋プレートの沈み込み速度は年間約7.8cmであることから、最大すべり量10mを超えるM9クラス巨大地震が73年の間隔で再来しうるのか、詳細なすべり分布の比較が今後の課題となる。
*1 https://www.ioc-sealevelmonitoring.org/
*2 https://www.ndbc.noaa.gov/
*3 https://earthquake.usgs.gov/earthquakes/eventpage/us6000qw60/finite-fault
2010年のチリ・マウレ地震や2011年の東北地方太平洋沖地震では、太平洋を横断する津波が深海津波計DARTによって詳細に記録された。これらのイベントでは、遠地における津波到達が線形長波理論に基づく予測よりも遅れることが報告された。Watada et al. (2014)は、従来の線形長波理論では無視されてきた(1)地殻の弾性変形、(2)海水の圧縮性と密度成層、(3)質量移動に伴う重力ポテンシャルの変化、などの物理効果(以下、副次的効果と呼ぶ)を考慮することで、遠地津波の到達の遅れを説明した。
2025年7月30日8時25分(日本時間)ごろ、カムチャツカ半島沖でMw8.8の地震が発生し、太平洋を横断する津波がDARTによって記録された。本発表では、今回の地震においても遠地での津波の遅れが確認されたこと、それが副次的効果によってほぼ説明可能であることを示す。また、USGSによる遠地地震波に基づく断層モデルから計算された波形と実際の観測波形を比較し、すべり域の拘束を試みる。さらに、先行研究で推定された1952年カムチャツカ地震の断層モデルについて、津波の副次的効果を考慮した再解釈の必要性を議論する。
2.データと手法
UNESCO-IOCのHP(*1)およびNOAAのHP(*2)から、60秒サンプリングのDARTデータを取得した。多項式フィッティングにより潮汐成分を近似し、元の記録から除去することで、津波の信号を抽出した。
津波シミュレーションでは、線形長波計算に加え副次的効果を考慮した計算も実装されているJAGURSを使用した(Baba et al. 2015, Allgeyer & Cummins 2014, Baba et al. 2017)。USGSの有限断層モデル(*3)のversion 1-4を用いて海底変位をOkada (1985)の式で計算し、津波シミュレーションの初期条件とした。時間刻み幅は1秒とし、地震発生から28時間後までの津波の伝播を計算した。断層破壊の進行や立ち上がり時間を考慮せず、瞬時に海面変動が発生すると仮定した。使用した水深データは、GEBCO 2025の15秒角グリッドを60秒角に間引いたもので、ネスティングは行わず単一のグリッド系を用いた。計算は東大情報基盤センターのスパコンシステムWisteria-aにおいて、MPI(4ノード・16プロセス)とOpenMP(18スレッド)によるハイブリッド並列計算により行った。
3.結果
線形長波方程式に基づくシミュレーションは、観測に比べて津波の到達時刻を早く評価し、遠地では最大20分程度の差が生じた。一方で、副次的効果を組み込んだシミュレーションでは、この差は最大10分程度まで縮小した。
USGSの有限断層モデル(v1–4)に基づき副次的効果を考慮した計算波形と観測波形を比較すると、方位依存的な特徴が確認された;波源東側(アリューシャン~北米・中南米)では、v1・v3・v4は到達を早く評価した一方、v2は位相が観測と良く一致したが振幅を過小評価した。波源南側ではv4、波源西側ではv1が振幅・位相ともに良好に一致した。このことから、v4のようにすべり域は海溝軸にまでは達していないこと、一方でv4で推定された北東側の大すべり域は津波波形を説明する上で不要であることが示唆された。
4.議論
カムチャツカ半島沖では、1952年にもMw9.0の巨大地震が発生している。Johnson and Satake (1999)は、太平洋各地の検潮記録に基づいて断層モデルを推定し、半島直下の陸側に大きなすべりを伴うモデルを提唱した。しかし、当時は副次的効果による津波の到達遅れが認識されていなかったため、北米西岸やハワイなど遠地で観測された遅れを説明するために、断層位置が海溝軸から陸側へずれたモデルが採用された可能性がある(太平洋の平均水深から計算される津波速度を約0.2 km/sとすると、例えば到達時刻の10分の遅れは震源の水平位置で約120 kmに相当する)。
本研究の結果から、副次的効果を考慮すると、1952年の地震の震源断層は従来考えられていたよりも海溝軸に近かった可能性が示唆され、2025年の地震とほぼ同じ場所で発生していた可能性も否定できない。オホーツクプレートに対する太平洋プレートの沈み込み速度は年間約7.8cmであることから、最大すべり量10mを超えるM9クラス巨大地震が73年の間隔で再来しうるのか、詳細なすべり分布の比較が今後の課題となる。
*1 https://www.ioc-sealevelmonitoring.org/
*2 https://www.ndbc.noaa.gov/
*3 https://earthquake.usgs.gov/earthquakes/eventpage/us6000qw60/finite-fault

