Presentation Information

[S03-01]Temporal Variation and Characteristics of Anelastic Strain Rate in the Crust of Kyushu, Japan, Following the 2016 Kumamoto Earthquake

*Yushi Nagayama1, Satoshi Matsumoto2, Yuhei Yuasa3, Takeshi Matsushima2, Kentaro Emoto2 (1. Department of Earth and Planetary Sciences, Graduate School of Science, Kyushu University, 2. Institute of Seismology and Volcanology, Faculty of Science, Kyushu University, 3. Japan Meteorological Agency)
PDF DownloadDownload PDF
地殻の応力・変形状態はプレート運動に伴い形成される広域応力や地殻構造,断層運動などの様々な要因により決定される.特に,上部地殻の地震発生層における応力場はプレート相対運動などによる応力載荷に加え,直下の下部地殻の非弾性変形によって長い時間スケールで形成されると考えられる(e.g., Iio et al., 2002,2004).下部地殻の非弾性変形とこの上部地殻の応力場は大地震の地震時応力変化によって時空間的に度々大きく変化するが,時間経過とともに緩和されていき,再度広域応力が支配的となることが示唆されている(e.g., Mitsuoka et al., 2020; Atterholt et al., 2025).
本研究の対象領域である九州地方に関しては,Yuasa and Matsumoto (2023)により,(1)下部地殻の非弾性変形,(2)プレート間固着,(3)火山活動,(4)地殻の剛体運動の4つの変動源で地殻変形場のモデル化がなされ,下部地殻の非弾性変形が上部地殻への応力載荷と地震発生に寄与していることが示されている.さらに,熊本地方の日奈久断層帯北部と布田川断層帯を震源域とした2016年熊本地震(最大前震Mj 6.5, 本震Mj 7.3)では,地震時の大きな地殻変動や応力変化以外にも地震後も地殻変動が継続する現象である余効変動が顕著であり,震源断層延長部での余効すべりと上部マントル・下部地殻での粘弾性緩和の寄与が示されている(e.g., Moore et al., 2017; Pollitz et al., 2017; Liu et al., 2024).このような大地震時の応力変化による応力・変形集中とその緩和を詳細に調査することは,地殻のレオロジー特性や変形場・応力場の理解につながり,将来の地震発生と地殻変動を予測するうえで非常に重要である.そこで本研究は,主に下部地殻の非弾性変形により長い時間スケールで形成されたと仮定される上部地殻の偏差応力場の情報を考慮することにより,熊本地震後に推定される下部地殻の非弾性変形からの粘弾性緩和成分の抽出と,地震後における九州地殻内の応力・変形の緩和過程について調査することを目的とする.
本研究では,上部地殻における偏差応力場を地震データから推定し,それを拘束条件としてGNSSデータを用いて下部地殻の非弾性歪み速度を推定した.地震データは九州大学地震火山観測研究センターをはじめとする大学,防災科学技術研究所,気象庁の定常・臨時地震観測点で得られた,2016年熊本地震前の期間における地震波形データを使用した.P波の初動極性データよりHASH(Hardebeck and Shearer, 2002)を使用して発震機構解を決定し,それら発震機構解よりMatsumoto (2016)の手法を用いて上部地殻における規格化偏差応力テンソルを領域ごとに推定した.GNSSデータは国土地理院のGEONETの基準点に加え,2019年11月以降の期間はソフトバンク株式会社の独自基準点のデータも使用した.これらのデータから季節変動やアンテナ保守等によるオフセット,外れ値を補正した後,各基準点における変位速度ベクトルを推定した.この変位速度ベクトルを用いて,Yuasaらの変動源モデルに基づき,下部地殻の非弾性変形の空間分布を推定した.ここで,下部地殻における非弾性変形は,その直上の上部地殻の偏差応力場の形成に寄与したと仮定し,規格化偏差応力テンソルの方向で拘束をかけてその大きさを推定した.
解析の結果,下部地殻における非弾性歪み速度は熊本地震後の震源域において周囲と比較して非常に大きな値を示した.また,各基準点における地表変位速度ベクトルの観測値とモデル計算値の残差も大きく,その方向性は震源域付近において先行研究(e.g., Pollitz et al., 2017)で示されている粘弾性緩和による変位速度ベクトルとおおよそ整合的な空間分布を示していた.さらに時間変化に着目すると,本震から時間が経過するにつれて下部地殻の非弾性歪み速度と,震源域付近の変位速度ベクトルの観測値と計算値の残差は減少していることが確認され,熊本地震時の応力変化が時間経過とともに緩和していることが示唆された.

謝辞
本研究で使用したソフトバンクの独自基準点の後処理解析用データは,「ソフトバンク独自基準点データの宇宙地球科学用途利活用コンソーシアム」の枠組みを通じて,ソフトバンク株式会社およびALES株式会社より提供を受けたものを使用しました.