Presentation Information
[S08-30]Mechanically Coupled Regions along the Nankai Trough and Stress Release of the 1707 Hoei Earthquake
*Tatsuhiko SAITO1, Tatsuya Kubota1 (1. National Research Institute for Earth Science and Resilience)
背景と目的
プレート境界における応力やひずみエネルギーの蓄積と解放の履歴を明らかにすることは,巨大地震の物理的理解に不可欠な基礎課題である.近年では,GNSS観測の解析により,プレート間の力学的固着域の推定や応力蓄積レートの評価が実用化されつつある(Saito & Noda, 2022 JGR; 2023 BSSA).また,震源直上の海底観測記録などを用いて,地震時の応力解放分布を推定する手法も提案されている(Kubota et al., 2022 PEPS).一方で,近代的な観測網が整備される以前に発生した歴史地震については,津波痕跡など限られた情報しか残っておらず,モーメントマグニチュードの推定は可能でも(Furumura et al., 2011 JGRなど),応力解放量の定量評価は困難である.このため,プレート境界における数百年スケールの長期的な応力蓄積・解放の履歴を定量的に把握するには至っていない.
本研究では,スロー地震活動やGNSS観測に基づく力学的固着域モデルに,津波痕跡から得られた沿岸津波高分布を組み合わせることで,1707年宝永地震のすべり分布および応力解放分布を推定することを目的とする.
手法と結果
本研究では,以下の3つの観測量を同時に再現することを目指したプレート間の力学的固着域の設定を行った.
(i) GNSS観測で得られている現在の地表変形レート
(ii) 歴史地震とスロー地震の発生域の棲み分け
(iii) 宝永地震の沿岸津波高分布ここでいう「力学的固着域」とは,地震間にはせん断応力が増加し,巨大地震やスロー地震発生によってせん断応力が減少する領域である.この領域は地震間のすべり欠損域よりも狭くなる.
南海トラフの力学的固着域として,GNSS観測記録の解析結果,さらに歴史地震とスロー地震の発生域を考慮して,7箇所の力学的固着域を設定した.これらは,過去の巨大地震発生箇所5つ(室戸沖,紀伊半島沖,熊野灘,遠州灘,東海沖),豊後水道スロースリップ発生箇所2つに対応している.7つの力学的固着域それぞれに対し,基底関数で与える単位応力蓄積量を仮定し,これに対応した地震間すべり欠損分布および地震時すべり分布を計算した(例Saito & Noda, 2022; 2023).これら力学的固着域に対応するすべり欠損分布を基底関数としたインバージョン解析により,地震間のGNSS記録を再現する地震間すべり欠損レート分布を求めた.一方,津波痕跡から得られた沿岸波高分布は地震時すべり量に対して非線形なため,地震性の5つの力学的固着域に対応するすべり分布の重ね合わせによって宝永地震のすべり分布を作成し,フォワードモデリングによって宝永地震の津波を再現する応力解放分布の推定を試みた.予備的な解析結果として,津波痕跡による沿岸波高分布の大局的特徴を再現するひずみエネルギーを解放する実効的平均応力解放量,およそ2.5 MPaを得た.モーメントマグニチュードはMw 8.7となり,先行研究(Furumura et al. 2011など)と整合する.
今後
本研究で現在得られている応力解放の値は,現在の応力蓄積レートを用いると400年程度の応力蓄積期間に相当する.これは1498年明応地震から1707宝永地震までの応力蓄積期間より長い.宝永地震の津波痕跡に含まれるばらつきやモデルの仮定の影響を考慮し,不確定性を評価する必要がある.
プレート境界における応力やひずみエネルギーの蓄積と解放の履歴を明らかにすることは,巨大地震の物理的理解に不可欠な基礎課題である.近年では,GNSS観測の解析により,プレート間の力学的固着域の推定や応力蓄積レートの評価が実用化されつつある(Saito & Noda, 2022 JGR; 2023 BSSA).また,震源直上の海底観測記録などを用いて,地震時の応力解放分布を推定する手法も提案されている(Kubota et al., 2022 PEPS).一方で,近代的な観測網が整備される以前に発生した歴史地震については,津波痕跡など限られた情報しか残っておらず,モーメントマグニチュードの推定は可能でも(Furumura et al., 2011 JGRなど),応力解放量の定量評価は困難である.このため,プレート境界における数百年スケールの長期的な応力蓄積・解放の履歴を定量的に把握するには至っていない.
本研究では,スロー地震活動やGNSS観測に基づく力学的固着域モデルに,津波痕跡から得られた沿岸津波高分布を組み合わせることで,1707年宝永地震のすべり分布および応力解放分布を推定することを目的とする.
手法と結果
本研究では,以下の3つの観測量を同時に再現することを目指したプレート間の力学的固着域の設定を行った.
(i) GNSS観測で得られている現在の地表変形レート
(ii) 歴史地震とスロー地震の発生域の棲み分け
(iii) 宝永地震の沿岸津波高分布ここでいう「力学的固着域」とは,地震間にはせん断応力が増加し,巨大地震やスロー地震発生によってせん断応力が減少する領域である.この領域は地震間のすべり欠損域よりも狭くなる.
南海トラフの力学的固着域として,GNSS観測記録の解析結果,さらに歴史地震とスロー地震の発生域を考慮して,7箇所の力学的固着域を設定した.これらは,過去の巨大地震発生箇所5つ(室戸沖,紀伊半島沖,熊野灘,遠州灘,東海沖),豊後水道スロースリップ発生箇所2つに対応している.7つの力学的固着域それぞれに対し,基底関数で与える単位応力蓄積量を仮定し,これに対応した地震間すべり欠損分布および地震時すべり分布を計算した(例Saito & Noda, 2022; 2023).これら力学的固着域に対応するすべり欠損分布を基底関数としたインバージョン解析により,地震間のGNSS記録を再現する地震間すべり欠損レート分布を求めた.一方,津波痕跡から得られた沿岸波高分布は地震時すべり量に対して非線形なため,地震性の5つの力学的固着域に対応するすべり分布の重ね合わせによって宝永地震のすべり分布を作成し,フォワードモデリングによって宝永地震の津波を再現する応力解放分布の推定を試みた.予備的な解析結果として,津波痕跡による沿岸波高分布の大局的特徴を再現するひずみエネルギーを解放する実効的平均応力解放量,およそ2.5 MPaを得た.モーメントマグニチュードはMw 8.7となり,先行研究(Furumura et al. 2011など)と整合する.
今後
本研究で現在得られている応力解放の値は,現在の応力蓄積レートを用いると400年程度の応力蓄積期間に相当する.これは1498年明応地震から1707宝永地震までの応力蓄積期間より長い.宝永地震の津波痕跡に含まれるばらつきやモデルの仮定の影響を考慮し,不確定性を評価する必要がある.
