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[S08-31]Why was the southern part of the Kii Peninsula less damaged by the Nankai earthquake?

*Yoshiko YAMANAKA1 (1. Nagoya Univ.)
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昭和南海地震では,和歌山県内で死者195人,全壊家屋2442軒などの甚大な被害(紀州災異誌続,1955)が出ている.紀伊半島南部では地殻変動も観測されており,南端では隆起していることから,断層は紀伊半島に及んでいたことがわかる.また津波到来も紀伊半島南部では数分後に到着しており,半島南部にかなり近いところで破壊が起こった事が推測される.
 現在,和歌山県南部について地方史,郷土史などを用いて南海地震の史料整理を行っている.昭和南海地震については多くの体験談が残っている.そこに書かれた状況をみると,印南町や芳養町,すさみ町,串本町では震源域に近いにもかかわらず,地震の揺れの被害はほとんどない.揺れは大きく長く続いたことが書かれている.早朝4時19分過ぎに起きた地震のため寝ていた人が多いが,寝間着を着替えて避難するなど家の中の被害もそれほど大きくなさそうである.気象庁の震度をみても震度4~5程度である.しかしその後すぐに町が壊滅的になる大きな津波が来ている.中には安政南海地震より高い津波がきたと言っている人もいる.あくまで感覚なので実際にはわからないが,羽鳥(1980)によると,紀伊半島南部では安政南海地震と同程度の津波であったとされている.紀州災異誌続(1955)でも「災害は地震動そのものによる直接被害は少なく,津波による被害がはるかに大きい」と指摘している.
 安政南海地震でも紀伊半島南部の震度は宇佐美(1984)によると4~5である.田辺や新宮など地盤の悪い地域のみ震度6となっていて,昭和南海地震同様,安政南海地震でも震度は大きくない.従って被害に関する記述も少なく,高い石垣にひび割れができた程度である.この地震でも低地域での津波被害は大きいが,すさみから串本にかけては標高がやや高いため津波の被害にあっていないところが多い.そういった地域について『玉置善右衛門記録』では「無事」と記載している.もし揺れによって家が倒壊していれば「無事」とは報告しないであろう.そう考えるとやはり安政南海地震でも紀伊半島南部の揺れによる被害は小さいと考えられる.
 これまで三重県における安政東海,昭和東南海の被害状況を調べてきたが,震源に近い地域では揺れによる家屋倒壊など多くの被害が出ていた.それに比べて紀伊半島南部では,昭和南海地震は震源が近いにもかかわらず揺れによる被害が少ない.安政南海地震については,震源域の場所の特定はできていないが,揺れと津波の被害の傾向は昭和南海地震によく似ている.なぜ震源域に近い紀伊半島南部で揺れの被害が少ないのか?地震と地殻変動データを用いた解析を行ったMurotani et al. (2014)の結果を基にその原因を考察する.
①地盤が強固さ:表層地盤の揺れやすさを考慮した内閣府等のシミュレーションでは大きな揺れが予想されていることから原因としては考えにくい.
②紀伊半島南部でのすべりが小さい.: Murotani et al. (2014)の結果では,アスペリティは大きい順に室戸沖,紀伊水道沖,紀伊半島南部付近にある.どのアスペリティでもすべり量は最大で4m以上あり,すべりが小さいとは言えない.
③長周期成分が卓越していた可能性:当時は低層の建物がほとんどであり,これらの建物は短周期成分に敏感であり,長周期成分が卓越した地震であれば揺れは小さいはずである.もし紀伊半島に近いアスペリティで長周期成分が卓越したすべりがあったとすれば揺れの被害が少なかったことは説明できる.
 地震波解析で求めた昭和東南海地震のアスペリティ(山中,2006)やMurotaniらの昭和南海地震のアスペリティと海底地殻変動データから示された現在歪みをためている場所(Yokota et al., 2016)と比較すると,昭和東南海地震のアスペリティや昭和南海地震の室戸沖のアスペリティは現在も歪みをためていることがわかる.しかしMurotaniらが求めた紀伊水道沖のアスペリティ付近では現在固着は弱い.またこの領域には海山が存在したり(Kodaira et al., 2000), VLFEが発生する(Okada et al., 2022)など,室戸沖や東南海の巨大固着域の周辺とは違い,流体が関与していると思われる長周期成分を伴う現象が発生している.また紀伊半島南部では2020年頃から長期的ゆっくりすべりが観測されている(国土地理院).これらのことからこの付近のcouplingはまわりよりは弱いが,室戸沖の固着の強いアスペリティがすべったことにより一緒にゆっくり滑った可能性がある.もしそうであれば,揺れの被害が小さいことや大きな津波が早くに押し寄せてきたことも説明がつきそうである.今後高知県側の被害状況も調べ,さらに検討していきたい.