Presentation Information
[S10-04]Coastal vertical displacement at several sites in Kochi Prefecture associated with the 1707, 1854, and 1946 Nankai earthquakes
*Yasuyuki KANO1,2 (1. Earthquake Research Institute, The University of Tokyo, 2. Collaborative Research Organization for Historical Materials on Earthquakes and Volcanoes, The University of Tokyo)
四国の室戸岬先端付近にある室津港の隆起量は,時間予測再来モデル(time-predictable recurrence model,時間予測モデル)を支持するデータのひとつとして有名である.時間予測モデルにもとづき,地震時のすべり量あるいはその代理指標としての隆起量と,次に起きる地震までの時間とが比例するという考え方が,室津港のデータとともに,地震調査委員会の長期評価にも取り入れられている.ただし,規模が大きく,震源域や地殻変動域も広い南海トラフで発生する地震の地震時すべり量を,室津港1点の隆起量で表現できるとしてよいのか,という疑問は,時間予測モデルに対しても,それを長期評価の手法として採用する際にも,課題として挙げられている.
時間予測モデルが提唱されたときに参照できたのは室津港のデータだけであったが,それ以降,多くの史料が収集され,分析も進められてきた.その結果,1707年宝永南海地震と1854年安政南海地震,1946年昭和南海地震の3つの地震について,室津港以外の地点でも海岸昇降が推定できるようになった.ここではおもに,都司(1988)や柴田(2017)などの分析結果を参照し,3つの地震について,高知県の複数地点における海岸昇降量を検討する.なお,必ずしも3つの地震で厳密に同一地点のデータではないことや,どのような測定であるかが不明なこと,海岸昇降と津波や液状化との区別ができない場合があることなど,現代の観測データと比べて,不確実性の大きいデータであることに注意が必要である.
最近の3つの南海地震について海岸昇降量が得られたのは,室津,高知,上ノ加江,土佐清水の4地点である.3つの地震の地震発生年と累積昇降量について直線で近似し,時間予測モデルへの適合性を調べた.室津については複数の研究成果があり,複数の史料を対象として,記述の再検討や,測定制度や誤差の検討がなされている.いずれの隆起量を採用しても直線でよく近似でき,時間予測モデルに適合するといってよい.高知と上ノ加江は3つの地震とも沈降で,時間予測モデルに適合する.土佐清水については,宝永南海地震と安政南海地震では沈降であるが,昭和南海地震では隆起であり,時間予測モデルに適合しない.
南海トラフの地震活動の長期評価(第二版)では,安政南海地震時の隆起量(1.2 m)と,安政南海地震と昭和南海地震の発生間隔(92 年)とから隆起速度を13 mm/年と求め,これと昭和南海地震の隆起量1.15 mから,次の地震が発生するまでの時間を88.2 年と推定し,これを標準的な発生間隔としている.同じやり方で高知と上ノ加江で計算すると,それぞれ105.1年,102.2年となった.また,地震発生年と累積昇降量を直線で近似した結果をもとに,次の地震までの時間を求めることもできる.この場合は,室津,高知,上ノ加江でそれぞれ91.9年,81.7年,106.7年となった.
個々の地点で時間予測モデルに適合していても,次の地震までの時間にはばらつきが生じる結果となった.長期評価にあたっては,このようなばらつきがあることを踏まえて発生間隔を設定するのがひとつの方策であろう.各地震のすべり量(海岸昇降量)の不確定性を考慮した統計モデルも提案されている.今後も海岸昇降量を用いるのであれば,南海トラフで発生する地震の多様性をふまえ,ここで検討したような地点ごとのちがいを反映する必要があるだろう.また,長期予測のさらなる高度化のためにも,歴史資料の収集や整理をすすめるとともに,たとえば,測定精度や誤差を歴史資料の記述から推定するなど,利用できる情報を増やすような分析を行っていく必要がある.
参考文献:都司(1988)歴史地震,4,149-156.柴田(2017)歴史地震,32,1-17.
時間予測モデルが提唱されたときに参照できたのは室津港のデータだけであったが,それ以降,多くの史料が収集され,分析も進められてきた.その結果,1707年宝永南海地震と1854年安政南海地震,1946年昭和南海地震の3つの地震について,室津港以外の地点でも海岸昇降が推定できるようになった.ここではおもに,都司(1988)や柴田(2017)などの分析結果を参照し,3つの地震について,高知県の複数地点における海岸昇降量を検討する.なお,必ずしも3つの地震で厳密に同一地点のデータではないことや,どのような測定であるかが不明なこと,海岸昇降と津波や液状化との区別ができない場合があることなど,現代の観測データと比べて,不確実性の大きいデータであることに注意が必要である.
最近の3つの南海地震について海岸昇降量が得られたのは,室津,高知,上ノ加江,土佐清水の4地点である.3つの地震の地震発生年と累積昇降量について直線で近似し,時間予測モデルへの適合性を調べた.室津については複数の研究成果があり,複数の史料を対象として,記述の再検討や,測定制度や誤差の検討がなされている.いずれの隆起量を採用しても直線でよく近似でき,時間予測モデルに適合するといってよい.高知と上ノ加江は3つの地震とも沈降で,時間予測モデルに適合する.土佐清水については,宝永南海地震と安政南海地震では沈降であるが,昭和南海地震では隆起であり,時間予測モデルに適合しない.
南海トラフの地震活動の長期評価(第二版)では,安政南海地震時の隆起量(1.2 m)と,安政南海地震と昭和南海地震の発生間隔(92 年)とから隆起速度を13 mm/年と求め,これと昭和南海地震の隆起量1.15 mから,次の地震が発生するまでの時間を88.2 年と推定し,これを標準的な発生間隔としている.同じやり方で高知と上ノ加江で計算すると,それぞれ105.1年,102.2年となった.また,地震発生年と累積昇降量を直線で近似した結果をもとに,次の地震までの時間を求めることもできる.この場合は,室津,高知,上ノ加江でそれぞれ91.9年,81.7年,106.7年となった.
個々の地点で時間予測モデルに適合していても,次の地震までの時間にはばらつきが生じる結果となった.長期評価にあたっては,このようなばらつきがあることを踏まえて発生間隔を設定するのがひとつの方策であろう.各地震のすべり量(海岸昇降量)の不確定性を考慮した統計モデルも提案されている.今後も海岸昇降量を用いるのであれば,南海トラフで発生する地震の多様性をふまえ,ここで検討したような地点ごとのちがいを反映する必要があるだろう.また,長期予測のさらなる高度化のためにも,歴史資料の収集や整理をすすめるとともに,たとえば,測定精度や誤差を歴史資料の記述から推定するなど,利用できる情報を増やすような分析を行っていく必要がある.
参考文献:都司(1988)歴史地震,4,149-156.柴田(2017)歴史地震,32,1-17.
