Presentation Information
[S20-01][Invited]Study on the propagation and scattering of short-period seismic waves in heterogeneous structures of the Earth
*Haruo SATO1 (1. Tohoku University)
ランダムな不均質構造における地震波の伝播と散乱に関する一連の研究は,コーダ波の励起を固体地球の不均質構造による後方散乱と解釈したAki & Chouet(1975)論文によって切り拓かれた。散乱波は互いに非干渉でエネルギー加算が成り立つという輻射伝達理論的な考えに基づくもので,本講演ではその後の研究の発展を紹介する。その多くは,東大地震研の研究集会 (通称 散乱集会)及び IASPEI のtask group“Scattering and Heterogeneity”の参加者によるものである。
1つの流れは数理的に取り扱いが容易なモデルの構築で,等方散乱体が一様ランダムに分布する中で一点から輻射された地震波のエネルギー密度の時空分布の導出である。一次等方散乱モデルの提案から始まり,単位あたりの散乱の強さを表す等方散乱係数の空間分布が調べられた。1990年代になり多重等方散乱モデルの解が得られると,S波エンベロープの解析から等方散乱係数と内部減衰を同時推定する方法が提案され,固体地球の異なる領域で,また幅広い周波数範囲でこれらの測定が行われるようになった。
もう1つの大きな流れは,坑井検層データに見られるように固体地球の速度構造は緩やかに変化する平均速度構造の上にランダムな揺らぎが重なっているという描像に基づくものである。散乱によってコーダ波が生成されるならば,内部減衰が無くても直達波の振幅は散乱で減衰することがエネルギー保存から要請される。1980年代になってこの問題は数理的に解決され, 直達波の散乱減衰とコーダ波励起は主に速度揺らぎの短波長(高波数)成分による広角度散乱に起因すると理解されるようになった。
多くの坑井検層データの解析から,速度揺らぎのパワースペクトル密度(PSDF)が波数の負冪乗に従うことが示され,フォンカルマン型のPSDFが速度揺らぎの代表的な統計モデルとして用いられるようになった。弾性媒質の場合,密度揺らぎとP波およびS波速度の揺らぎとの間に線形関係を与えた場合の考察が進められた。1980年代には,ボルン近似で非等方な散乱係数を求め,一次散乱近似の範囲ではあるが,ベクトル加算でP波初動からコーダ波に至る3成分全地震波形エンベロープの計算が行われた。2000年代になると,多重散乱を考慮した3成分全地震波形エンベロープの計算がモンテカルロ法を用いて行われるようになった。
1989年には,微小地震の観測から,伝播距離の増加と共にS波主要動の継続時間が長くなる現象が報告された。このエンベロープ拡大は速度揺らぎの長波長(低波数)成分による前方の狭角散乱の累積によるものと理解される。この場合,アイコナール近似によって前方の狭角散乱を計算し,モンテカルロ法によって直達波のエンベロープ拡大を計算できる。このように,地震波エンベロープの周波数依存性は速度ゆらぎのスペクトルを強く反映している。
周波数が高くなるとボルン近似の適用範囲を外れるが,その場合,与えられた速度揺らぎのPSDFを2分割し,高波数スペクトル成分にボルン近似を,低波数スペクトル成分にアイコナール近似を用いて散乱角を計算し,モンテカルロ法を用いて地震波エンベロープを計算する方法も提案されている。
速度揺らぎのPSDFの測定は,地震波エンベロープ解析の他に坑井検層や岩石標本の撮像解析などを用いて,大はマントルから小は岩石の鉱物粒子まで広がった。速度揺らぎのPSDFの波数依存性を見ると,それらの上縁は概ね波数の-3乗に従う。これから計算した輸送散乱係数は周波数の一次関数で表され,上述の等方散乱係数の広い周波数帯域における測定値を概ね説明できる。しかし火山や月では,等方散乱係数の測定値の多くがこの輸送散乱係数よりも大きく,ランダムな速度揺らぎが大きいだけでなくクラックや空孔による散乱の寄与が強く示唆される。
今後,速度揺らぎのPSDFが異方性を持つ場合や深さと共に変化する場合など,より現実的な不均質構造を取り入れた研究が進むことが望まれる。
謝辞
このたび日本地震学会賞を授かり,誠に光栄に存じます。ランダムな不均質構造における地震波の伝播と散乱に関する研究が地震学の一手法として認知されたことを嬉しく思います。筆者の研究は防災センター(現 防災科研)在籍時に始まり,国内外の研究者と連携した共同研究があり,東北大へ籍を移してからは院生達との共同研究が中心となって進められました。これまでご指導いただいた先生方や多くの共同研究者の方々, そして推薦に携わられた方々に篤くお礼申し上げます。
1つの流れは数理的に取り扱いが容易なモデルの構築で,等方散乱体が一様ランダムに分布する中で一点から輻射された地震波のエネルギー密度の時空分布の導出である。一次等方散乱モデルの提案から始まり,単位あたりの散乱の強さを表す等方散乱係数の空間分布が調べられた。1990年代になり多重等方散乱モデルの解が得られると,S波エンベロープの解析から等方散乱係数と内部減衰を同時推定する方法が提案され,固体地球の異なる領域で,また幅広い周波数範囲でこれらの測定が行われるようになった。
もう1つの大きな流れは,坑井検層データに見られるように固体地球の速度構造は緩やかに変化する平均速度構造の上にランダムな揺らぎが重なっているという描像に基づくものである。散乱によってコーダ波が生成されるならば,内部減衰が無くても直達波の振幅は散乱で減衰することがエネルギー保存から要請される。1980年代になってこの問題は数理的に解決され, 直達波の散乱減衰とコーダ波励起は主に速度揺らぎの短波長(高波数)成分による広角度散乱に起因すると理解されるようになった。
多くの坑井検層データの解析から,速度揺らぎのパワースペクトル密度(PSDF)が波数の負冪乗に従うことが示され,フォンカルマン型のPSDFが速度揺らぎの代表的な統計モデルとして用いられるようになった。弾性媒質の場合,密度揺らぎとP波およびS波速度の揺らぎとの間に線形関係を与えた場合の考察が進められた。1980年代には,ボルン近似で非等方な散乱係数を求め,一次散乱近似の範囲ではあるが,ベクトル加算でP波初動からコーダ波に至る3成分全地震波形エンベロープの計算が行われた。2000年代になると,多重散乱を考慮した3成分全地震波形エンベロープの計算がモンテカルロ法を用いて行われるようになった。
1989年には,微小地震の観測から,伝播距離の増加と共にS波主要動の継続時間が長くなる現象が報告された。このエンベロープ拡大は速度揺らぎの長波長(低波数)成分による前方の狭角散乱の累積によるものと理解される。この場合,アイコナール近似によって前方の狭角散乱を計算し,モンテカルロ法によって直達波のエンベロープ拡大を計算できる。このように,地震波エンベロープの周波数依存性は速度ゆらぎのスペクトルを強く反映している。
周波数が高くなるとボルン近似の適用範囲を外れるが,その場合,与えられた速度揺らぎのPSDFを2分割し,高波数スペクトル成分にボルン近似を,低波数スペクトル成分にアイコナール近似を用いて散乱角を計算し,モンテカルロ法を用いて地震波エンベロープを計算する方法も提案されている。
速度揺らぎのPSDFの測定は,地震波エンベロープ解析の他に坑井検層や岩石標本の撮像解析などを用いて,大はマントルから小は岩石の鉱物粒子まで広がった。速度揺らぎのPSDFの波数依存性を見ると,それらの上縁は概ね波数の-3乗に従う。これから計算した輸送散乱係数は周波数の一次関数で表され,上述の等方散乱係数の広い周波数帯域における測定値を概ね説明できる。しかし火山や月では,等方散乱係数の測定値の多くがこの輸送散乱係数よりも大きく,ランダムな速度揺らぎが大きいだけでなくクラックや空孔による散乱の寄与が強く示唆される。
今後,速度揺らぎのPSDFが異方性を持つ場合や深さと共に変化する場合など,より現実的な不均質構造を取り入れた研究が進むことが望まれる。
謝辞
このたび日本地震学会賞を授かり,誠に光栄に存じます。ランダムな不均質構造における地震波の伝播と散乱に関する研究が地震学の一手法として認知されたことを嬉しく思います。筆者の研究は防災センター(現 防災科研)在籍時に始まり,国内外の研究者と連携した共同研究があり,東北大へ籍を移してからは院生達との共同研究が中心となって進められました。これまでご指導いただいた先生方や多くの共同研究者の方々, そして推薦に携わられた方々に篤くお礼申し上げます。
