講演情報

[SY7-1]薬剤が高齢者の口腔機能に与える影響

○平井 みどり1 (1. 神戸大学 名誉教授)
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【略歴】
平井 みどり(ひらい みどり)
神戸大学 名誉教授、京都大学医学研究科 特任教授
1951年5月19日 兵庫県伊丹市生

【学歴】
1974年3月 京都大学 薬学部 卒業(薬学士)
1985年3月 神戸大学 医学部 卒業(医学士)
1990年3月 神戸大学大学院医学研究科博士課程修了 医学博士

【職歴】
1990年4月 神戸大学医学部附属病院 薬剤部
1990年8月 京都大学医学部附属病院 薬剤部
1995年4月 神戸薬科大学 助教授
2002年10月 神戸薬科大学 教授
2007年3月 神戸大学医学部附属病院 教授・薬剤部長
2017年4月 同 名誉教授 
2018年4月 兵庫県赤十字血液センター 所長
2022年3月 同 定年退職
 神戸低侵襲がん医療センター 薬剤部顧問及び傾聴外来担当医師(現在に至る)
2022年4月 京都大学医学研究科 特任教授(非常勤研究員・現在に至る)
平均寿命が世界一・二位を誇る長生き日本人ではあるが、若い時と同じ体力・身体能力が常に維持できるわけではない。いっぽうで、高齢化による心身の機能低下は、不可逆的に進行するものばかりではない。適切な介入により状態が改善するゾーンもあり、その状況をフレイルと呼んでいる。フレイルに対する適切な介入に向けて、機能別にアイフレイル(眼科領域)やファーマコフレイル(薬物治療関連)などのサブグループも提唱されている。歯科領域では、嚥下機能低下や口腔内の老化を含むオーラルフレイルが提唱される。高齢者といえば、医者通いが連想されるように、複数の疾患をもち治療を続けながら、元気に働く人もいる。見かけは元気でも、実は重大な疾患が表面化していない場合や、疾患の症状と思っていたら実は薬による副作用、という例もあり、高齢者については疾患だけに注目していては重大なトラブルを見落としてしまう可能性がある。疾病の予兆を早期にとらえて、適切な対応をすることや、薬による不具合を確実に防ぐことは、高齢者医療の重要なポイントと言えるだろう。歯科治療を受ける患者が高齢の場合は、多疾患を抱えている可能性が高く、治療薬も医科で多種類を処方されていると考えたほうが安全である。処方される薬の種類が多ければ多いほど、薬物相互作用による有害事象も起こりやすくなる。抜歯時に留意すべき抗血小板薬や抗凝固薬、顎骨壊死につながる骨吸収阻害薬などは、歯科領域でもよく知られているが、大きなトラブルではないものの、生活の質が低下するような状況が、実は薬によるものである例がしばしば存在する。高齢者に処方される頻度の高い薬には、抗コリン作用を示すものが含まれており、副作用の口渇や便秘の他に、高齢者の場合心機能抑制や尿閉など重大なトラブルに繋がる可能性がある。高齢者の口腔内トラブルでよくある訴えのなかに、処方薬が原因のものがかなり高率に含まれることを、念頭に置いて下さるよう、歯科の先生方にはお願いしたい。例えば唾液の分泌低下による口渇は、治療薬の抗コリン作用の可能性があるが、抗コリン作用によって高齢者の場合運動機能低下や記憶障害などの有害作用が現れることがある。嚥下機能低下にも繋がるので、リスクが大きいため、「日本版抗コリン薬リスクスケール」が昨年発表され、日本老年医学会のサイトに掲載されている。歯周病も、背景に治療薬の副作用による歯肉肥厚が存在する場合がある。中枢神経に作用する薬は、嚥下機能低下を生じる可能性が高い。味覚異常も薬が原因の場合があり、食欲低下から身体機能低下に繋がる可能性がある。多剤併用時には以上のようなトラブルがより生じやすくなるため、ポリファーマシーの改善が必須であり、そのためには医療者の情報共有・連携が是非とも必要である。(1154文字)