講演情報

[SY8-2]スマートフォンによる咀嚼状態の簡便かつ高精度計測手法の開発とその応用

○武政 誠1 (1. 東京電機大学 理工学部 生命科学系)
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【略歴】
武政 誠(たけまさ まこと)
東京電機大学 理工学部 生命科学系, 生物物理化学研究室 教授

2002年 早稲田大学 学位取得(博士、理学)
2002年 大阪市立大(西成勝好教授, 食品プロセス工学研究室), 博士研究員, 学術振興会特別研究員PD
2005年 大阪府立大(北村進一教授, 生物物理化学研究室), 学術振興会特別研究員PD
2008年 ノルウェー科学技術大(Prof. Bjørn Stokke, Dept. Physics,
NTNU), 研究員
2009年 理化学研究所(前田バイオ工学研究室), 基礎特別研究員
2012年 早稲田大学, 創造理工学部 講師
2017年 東京電機大 理工学部 (准教授)
2020年  東京電機大 理工学部 (教授), 現在に至る

【研究分野】
多糖物性一般(力学物性、熱物性、NMR、AFM、等), ナノバイオサイエンス(1分子計測, 単分子操作), レオロジー一般と食品応用(ここ数年は) フード3Dプリンタ, 食感分析
乳幼児から成人、老年期へと、口腔機能は摂食形態や歯の状態など状況が変化し、それぞれで、様々な問題が発生する。様々な評価技術が開発されているが、医療機関を受診する前段階でも、簡易的に評価を実施することで、評価対象者を増加させ、また早い段階から自己認識することも重要である、などの理由から、簡便な評価手法が多数提案されている。簡便で、かつ詳細な咀嚼状況を把握することが可能な手法として、我々はスマートフォンを利用した計測法を開発している。日本で普及するスマートフォンには3Dスキャナが約7割程度の機種で搭載されている。このセンサーは本人確認のために顔の立体形状を迅速計測する目的で利用され、目の大きさ、間隔などの特徴値を静止状態で取得した顔の立体形状から評価するが、3Dスキャナ自体は、動画でも機能する。我々は、咀嚼時の顔表面形状の変化を、顔表面の1220点のXYZ座標各々の経時変化として取得し、サーバー側にアップロードするシステムを開発した。咀嚼回数、速度、振幅など多数の特徴値を自動評価することが可能となっている。また、口の開閉だけでなく、下顎の立体的な運動を追跡可能であり、臼磨運動に関しても詳細な情報が取得可能となりつつある。本計測手法の特徴として、何より手軽に計測が可能な点が挙げられる。スマートフォンは必須であるが、年間2億台とも言われるiPhoneは、十分に普及しており、日本では約7割のシェアとなっている。つまり、追加で咀嚼評価表の特殊デバイスを購入する必要はなく、常時持ち歩く性質上、老若男女誰でも簡単に、いつでもどこでも計測、および評価が可能なツールとして利用可能である。一例として、オトガイ頂点の3次元座標を、経時変化としてプロットすると、食品ごとに咀嚼動作には大きな差が生じていること、また、被験者ごとに個人差も大きいことが本計測手法からも確認された。本測定手法が簡便に大規模計測を実施可能な点を活かして、我々はビッグデータ構築を試みており、現在6万回を超える計測データを蓄積している。本ビッグデータに基づくディープラーニング解析を適用したところ、咀嚼動作だけから、被験者が現在なにを食べているか?(種類)どの程度の量を食べているか?(量)、食品物性(かたさ他)、など咀嚼動作に直結する条件を高確度で推定することに成功した。さらに、呈味成分やフレーバー、例えば塩や砂糖の量、香り付に関しても咀嚼動作から推定することが可能であることを得ている。今後は、高齢者に対しても大規模データセットを構築していくことで、老年期に特有な情報を簡便に取得し、さらに簡便な自己評価などにも繋げていければ、と考えております。