講演情報
[SY8-3]AI嚥下計による摂食嚥下機能検査の革新と社会実装
○鈴木 健嗣1 (1. 筑波大学 システム情報系 系長・教授)
【略歴】
1997年早稲田大学・理工学部・物理学科卒.日本学術振興会特別研究員,早稲田大学理工学部応用物理学科助手,筑波大学講師,准教授を経て,2016年筑波大学教授.2024年より大学執行役員およびシステム情報系長.筑波大学附属病院未来医工学融合研究センター副部長.現在に至る.その間,1997年伊ジェノヴァ大学,2009年仏カレッジ・ド・フランスにて客員研究員.人工知能,拡張知能,ロボティクス研究の医療福祉,発達支援応用の研究に従事.300件以上の査読付き論文を発表,関連分野の会議で招待講演多数.2019-2024年,ロボティクス分野における世界最大の学術組織であるIEEE Robotics and Automation Societyにおいて理事. 2018年より摂食嚥下障害に関わる社会課題解決のためのスタートアップ企業としてPLIMES株式会社を創業.
1997年早稲田大学・理工学部・物理学科卒.日本学術振興会特別研究員,早稲田大学理工学部応用物理学科助手,筑波大学講師,准教授を経て,2016年筑波大学教授.2024年より大学執行役員およびシステム情報系長.筑波大学附属病院未来医工学融合研究センター副部長.現在に至る.その間,1997年伊ジェノヴァ大学,2009年仏カレッジ・ド・フランスにて客員研究員.人工知能,拡張知能,ロボティクス研究の医療福祉,発達支援応用の研究に従事.300件以上の査読付き論文を発表,関連分野の会議で招待講演多数.2019-2024年,ロボティクス分野における世界最大の学術組織であるIEEE Robotics and Automation Societyにおいて理事. 2018年より摂食嚥下障害に関わる社会課題解決のためのスタートアップ企業としてPLIMES株式会社を創業.
高齢化が進む我が国において、摂食嚥下障害の克服は老年期の口腔健康を支える上で喫緊の課題である。摂食嚥下障害は、誤嚥性肺炎や低栄養状態を引き起こすのみならず、QOLの著しい低下をもたらし、患者や家族に深刻な影響を与える疾患である。特に後期高齢者においては、嚥下機能の低下が再入院のリスクや長期的な介護の必要性を高め、医療・介護の持続可能性に直結する課題である。オーラルフレイルから口腔機能低下症、さらには摂食嚥下障害に至る連続的過程においては、早期発見と適切な介入が求められる。しかし、嚥下動作は外見からの観察が困難であり、すべての食事において見守りを行うことには限界がある。また、退院後の食支援の継続実践には、客観的な嚥下機能評価と遠隔支援が不可欠であるが、現場では未だ十分な手段が整っていない。そこで我々は、頸部から嚥下音を計測する頸部装着型電子聴診器「GOKURI」の開発、および嚥下音AI自動検出アルゴリズムを用いた新たな簡易嚥下機能評価法の開発と社会実装に取り組んでいる。GOKURIは2023年8月に医療機器として認証され、嚥下音や咳、ムセといった生体音を非侵襲的かつ連続的に取得することが可能である。本技術を活用したAI嚥下計は、病院・歯科診療所・在宅・介護施設など多様な現場において、嚥下機能を定量的に評価し、スクリーニングから個別最適な摂食嚥下リハビリテーションおよび口腔ケアの支援につながることが期待される。なお、2024年の嚥下障害診療ガイドライン改訂では、簡易検査の意義がより明確化されており、ベッドサイドでの摂食嚥下機能評価に対する臨床現場の期待はますます高まっている。本講演では、嚥下音の定量化による食事能力の評価、ムセや異常呼吸音を検出することで誤嚥リスクを提示する仕組み、嚥下クリアランス時間の活用による咀嚼機能や口腔機能の評価への応用といった一連の臨床研究の成果を報告する。さらに、食形態の適切性を評価・推奨する嚥下AIによるスクリーニング手法、誤嚥リスクを継続的にモニタリング可能なプログラム医療機器の開発展望についても議論する。これにより、本機器を用いて嚥下機能に応じた食形態選定の支援と、選定された食事が安全・安心であるかを検証する新たな治療的介入が可能となり、患者の食行動における意識変容を促す働きも期待される。加えて、GOKURIに搭載されたバイタルセンサにより、体温上昇や血中酸素飽和度の変化といった肺炎徴候の早期検出にも発展しうる。これらに加え、クラウド連携によるリアルタイムモニタリング、姿勢安定性の評価などを組み合わせた「嚥下DX基盤」によって、地域包括ケアを支える高齢期の誤嚥リスク管理に資するデジタルヘルスケア機器の実現可能性を展望する。