講演情報

[SY8-4]DXが可能にする超高齢社会のヘルスケア

○玉田 泰嗣1 (1. 北海道大学大学院歯学研究院 口腔健康科学分野  高齢者歯科学教室)
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【略歴】
2007年 岩手医科大学歯学部 卒業
2008年 岩手医科大学大学院歯学研究科 入学
2012年 岩手医科大学大学院歯学研究科 修了
 岩手医科大学歯学部 補綴・インプラント学講座
 ハーバード大学歯学部留学(2014年)
2020年 長崎大学病院 特殊歯科総合治療部・摂食嚥下リハビリテーションセンター
2023年 長崎大学病院 義歯補綴治療室・嚥下障害治療センター
2024年 北海道大学大学院歯学研究院 口腔健康科学分野 高齢者歯科学教室
DX(digital transformation)は,インターネットおよび演算能力の高いPC・スマートフォンの普及により急激に社会へと浸透している.DXの基盤となる情報のデジタル化は,血液検査など医療においても古くから行われ,日々進化している.現在の医療におけるDXの中心には,工学系の技術者・研究者の絶え間ない努力による種々のセンサ・デバイスおよび情報処理方法の開発がある.近年の歯科医療においては,口腔機能低下症の検査である口腔機能精密検査により,機能を数値として計測することで口腔機能の客観的評価が可能となりDXの基盤が整ってきている.一方で,口腔機能精密検査において嚥下機能の評価は質問紙で行われており,デジタル化が進んでいない領域ともいえる.理由の一つに嚥下運動を単純化できていないことがある.嚥下リハの根幹は,機能障害の結果としての誤嚥や咽頭残留ではなく,全身疾患や薬剤を含む障害の原因がどのように筋肉などの器官に影響し機能が変化しているかを考察することにある.そのため嚥下運動を筋電図などから分析する方法は合理的であるが,運動に関与する多くの筋肉からの情報を俯瞰し把握することは困難である.また,多くの人は,情報の種類と量が増え複雑になると処理が困難となる.一方で,AIは,多面的で多量な情報を分類し異常値を検出すること,画像の中から特定の人や物体等を認識すること,数値化されている情報の推移を予想することなどを得意としている.これらのAIの特徴を活かし,これまで嚥下機能を非侵襲で捉える方法について研究を行ってきた.
 医療者が知識を得る過程や各ステージにおける試験の多くが視覚情報から成り立っているため,医療者は視覚情報との付き合い方に慣れている.臨床において医療者は,味覚以外のほぼ全ての感覚からの情報と知識を統合して診断し治療を行っている.特に歯科治療においては手指から得る触覚の情報を必要とする場面が多く,触覚の情報処理を得手不得手とするかは,いわゆる技量に大きく影響している.よって,感覚をデジタル化し技能の修得や評価に活かすことはDXへと繋がり歯科医療の可能性を広げる.また,多くの医療現場と同様に,リハビリテーションにおいてもマンパワーは恒常的に不足しており,患者自身や介護者による訓練に頼らざるを得ない場合が多い.リハビリテーションは,評価・計画立案・訓練のサイクルを繰り返し遂行するため,評価や訓練が成否に大きく影響する.そのため,患者自身や介護者が行える侵襲の無い客観的評価法および医療者による徒手的訓練の代わりとなる訓練法が必要とされている.
 まだ道の途中ではあるが,本シンポジウムでは,非侵襲に観測可能な表面筋電図の特徴を捉えることで,VEやVFでしかわからなかった嚥下機能に関する情報を得る仕組み,触覚に関するデバイスを利用した機能評価および訓練法を示す.