講演情報

[SY08-4]〈痛みとケア〉という視点からの在宅医療

島薗 進 (大正大学地域構想研究所)
1948年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科教授、上智大学大学院実践宗教学研究科教授、同大学グリーフケア研究所所長を務め、その間、シカゴ大学、ヴェネチア大学などで短期の客員教授を務める。現在、大正大学客員教授、龍谷大学客員教授、上智大学グリーフケア研究所客員所員、曹洞宗総合研究所講師、NPO法人東京自由大学学長、東京大学名誉教授。著書に『現代宗教の可能性』『スピリチュアリティの興隆』『国家神道と日本人』『日本仏教の社会倫理』『戦後日本と国家神道』(岩波書店)、『教養としての神道』(東洋経済新報社)、『新宗教を問う』『宗教学の名著30』(筑摩書房)、『ポストモダンの新宗教』『精神世界のゆくえ』(法藏館)、『現代救済宗教論』(青弓社)、『明治大帝の誕生』(春秋社)、『宗教を物語でほどく アンデルセンから遠藤周作へ』『宗教のきほん なぜ「救い」を求めるのか』『死に向き合って生きる』『100分de名著 キューブラー・ロス『死ぬ瞬間』』(NHK出版)、『日本人の死生観を読む』『ともに悲嘆を生きる』『死生観を問う』(朝日新聞出版)などがある。
緩和ケアは当初から死生学的観点と不可分に展開してきた。聖クリストファー・ホスピスを開設したシシリー・ソンダース以来、死を意識せざるをえない医療において、全人的な痛み(トータルペイン)と全人的なケアという(トータルケア)を念頭に置くことが求められてきた。WHOの定義では、「緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである」となる。死生学は心理社会的・スピリチュアルな問題と深い関わりがあり、とりわけ「死に向き合う」ことへの理解を深めるための学びである。心理社会的、またスピリチュアルな問題への対応は医療職だけが担うのではないとしても、医療職がそこに関わる必要があることは確かなことだ。このようなアプローチは病院の緩和ケア病棟でだけ意識すればよいものではない。また、死が間近な時期だけの事柄でもない。広い領域の医療において「身体的な健康と死」を超えて意識すべき〈痛みとケア〉のあり方がある。在宅医療や地域医療においては、病院においてよりもこのような〈痛みとケア〉の重要性が認識され、実践に移されやすくもある。一つには多職種や家族、さらには地域住民との連携が形を取りやすい。また、時間的にも「身体的な死の前」という限られた時間を越えて取り組むべき課題となるのが自然である。とりわけ「死で終わらない」痛みとそれに対するケアは理解しやすい課題だ。そして、そのようなケアは実は「死の前から」、「まだ死の切迫を感じずに生きている間から」のケアともつながっているだろう。