講演情報

[SY09-3]38%の戦力喪失を想定した在宅医療OS―判断と安全性が崩れない運営構造の実装―

佐藤 夏菜子, 八森 淳, 大友 路子 (医療法人MoLead つながるクリニック)
八森 淳 理事長・院長
1991年、自治医科大学卒業。
青森県のへき地医療を含む公立病院・診療所に勤務。
2004年4月、公益社団法人 地域医療振興協会地域医療研修センター副センター長。
2016年10月、横浜市港南区野庭町につながるクリニックを開業。
在宅医療・在宅入院、地域連携・医療連携、自治体事業計画への参画、認知症医療体制の構築および認知症診療に取り組んでいる。
<社会的活動>
・多職種による支援困難事例検討手法「見える事例検討会」を開発し、全国展開を継続中
・認知症予防学会 評議員
・横浜市医師会 プライマリ・ケア医会 副会長
・横浜市医師会 学術委員
・横浜市認知症施策検討会 委員
・NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク 理事
※「在宅入院」は八森淳の登録商標です。

佐藤夏菜子
高校卒業後、印刷会社、測量会社を経て、美容クリニックで電子カルテ・会計・勤怠などのシステム導入を行う。
2023年11月 つながるクリニック入職。
ノーコードツールで在庫・期限管理のアプリ作成、勤怠のシステム化やペーパーレス化、訪問ルート管理の仕組みを作成した。非医療職・非エンジニアでも実現できる効率化と質の向上を模索している。
在宅医療は今後、人手不足に直面することは必至だ。当院では単に「楽」のための効率化ではなく、「38%の戦力喪失を想定した、医療判断と安全性が崩れないOS(仕組み)」の構築を目指し、AI・RPAを活用した業務再設計を行った。

システムの核は、月額1万円以下の安価な「タスク管理ツール」への情報集約だ。全スタッフの訪問ルートと進捗を可視化。これを起点に、ノーコードで構築したクラウド型RPAが夜間に10種類以上の定型業務(運転日報・コスト入力・カルテ下書き等)を代行し、翌朝には完了する体制を整えた。 情報共有では、外部の医療・介護連携SNSを独自プロンプトでAI解析し重要度を自動分類。緊急性のある情報のみをルート管理画面に通知し、判断・連絡・対応を即日完結させる「判断の自動化」を実現した。さらに、RPAによる定期検査や抗菌薬適正使用の「自己監査機能」を、API非連携下で独自実装した。本取り組みは、看護師が8名から5名へ急減(実質38%減)する危機の際に間に合い、ほぼ残業増なく重症患者を含む診療体制を維持した。人員回復後の現在は、生まれた余力を看護師によるPOCUSや、ビデオ通話を活用した「D to P with N」での緊急対応に充て、質の向上へ転換。事務職も残業が減少、コミュニティカフェ運営等の地域共生活動など、新たな価値を創出できている。

重要なのは完成形ではない点だ。AIやRPAが提示する判断材料を元に、最終方針は人間が決めるという「思考の役割分担」を明確にした上で、蓄積された全データから現場自らが次の課題を見つけ続ける「改善の循環」を内包している。「個人の頑張り」という不確実なものに依存せず、記録・判断・監査が自律的に回り続ける運営構造を備えることこそが、人が減る未来に耐えうる、持続可能な唯一の回答であり、単なるツール導入ではなく、在宅医療を存続させるための運営思想そのものである。