講演情報

[T1-01]脱炭素化社会と必須金属資源「招待講演」

*細井 義孝1 (1. JICA)

キーワード:

脱炭素化、必須金属、鉱業の課題

近年、地球の気温上昇により、北極・南極における大規模かつ不可逆的な氷床消失による海面水位の上昇、熱波・豪雨・沿岸域の氾濫などの気象の極端現象の発生、ツンドラの融解による未知の細菌類の出現、作物生産や水の利用可能性の減少、などの問題が発生し、世界的対応を求められている。地球の気温上昇を抑制する対策としては、省エネルギー化、エネルギーの低炭素化(風力発電、太陽光発電、地熱発電等の利用促進)、利用エネルギーの転換(電化、水素利用等)などが考えられている。ここで、エネルギーの低炭素化を試みようとしたとき、特別な金属が異常に大きな量で必要なことがわかってきた。例えば、太陽光発電では、太陽光電池として銅・アルミニウムのほか、ガリウム、カドミウムが必要である。風力発電のタービンには、ネオジウムやジスプロシウムなどの希土類鉱物で構成される永久磁石を使用した発電機が用いられる。地熱発電では、耐熱井戸のためにチタン、その他の技術にもクロムが必要である。蓄電池は、電気自動車、風力発電でも必要だが、リチウム、バナジウムを必要とする。電気自動車の需要は各国で急激に拡大してきており、蓄電池の需要は比例して拡大する。どのくらい伸びるかと言えば、世界銀行の2020年の報告書によれば、2018年度の生産量に対して、2050年度に必要な量を予測すると、グラファイト494%、リチウムで488%、コバルト460%、インジウム231%、バナジウム189%等の量が、カーボンニュートラルの対応への新技術だけで、必要となっている。必要な金属は、これだけではない。世界銀行は17種の鉱種を挙げている。これら金属の、埋蔵、生産、消費はどのようであるか、筆者は重点対応国を考えた。これらの資源は開発途上国に多くが存在する。ここで、重要鉱物資源を確保するための課題を考える。銅、アルミニウムおよびインジウム以外の6つの鉱種はいずれも資源賦存の偏在性が極めて高く、それは今後需要が増大する鉱物資源の安定的な確保において大きな懸念事項である。また、その限られた生産国の中には政情が不安定であったり、鉱山開発に伴う環境汚染が問題となっていたり、社会的混乱が頻発する国が多く含まれていることも懸念される事項である。これまでの経済システムは、平時を前提として効率性を追求し、グローバル化が推し進められてきたが、新型コロナウィルス感染の拡大によってサプライチェーンの混乱が生じ、世界的な経済活動の停滞を引き起こした。コロナ後を考える上では、サプライチェーンの強靭化を視野に入れた戦略の見直しが必要となる。重要鉱物資源の埋蔵量が豊富な国でありながら開発が進んでおらず、生産量が少ない国が多くあり、今後これらの国々で開発を進めることは、需要の増大に対する供給不安の払拭に繋がるし、サプライチェーンの強靭化も図れるものと考えられる。気候変動対策としてエネルギーの低炭素化およびCO2排出量の抑制を図るためには、これまでの生産量をはるかに上回る量を必要とする重要な鉱物資源が種々存在し、それらの多くが偏在しており生産国が限られている。しかしながら、これらの鉱物資源の十分な、かつ安定的な供給なしには2DSシナリオの達成はあり得ない。そのため、今後の持続的かつ安定的な鉱山操業および開発では以下のような対応が肝要となる。  ① ソーシャルライセンス(鉱山開発に対する地域社会による許容)を取得すること。  ② 環境保全および環境修復に万全を期すこと。  ③ 鉱物資源の採掘および処理においてクリーンエネルギー利用への移行を図ること。(鉱業は世界のエネルギー使用の11%を占める) 例:ザンビアの鉱業セクターは国内電力消費の半分を占める。さらに鉱業セクターの半分は排水のために消費される。最後に、鉱山のコロナ対策と効率化には鉱山自動化、無人化、遠隔化、人工知能(Artificial Intelligence:AI)の導入が考えられる。それは企業にとってのメリットであるが、国としてジレンマもある。途上国の発展のステップとしては、多くの雇用を生み出し、基礎的技能・技術を身に着け、労働者家族の生活の向上、といった鉱業の特典を甘受するメリットと相反するので、先端技術の導入にはジレンマがあり、当該国の経済構造・経済レベルを見ながら、技術キャッチアップを図りながら導入しなければならない。JICAは資源開発保有途上国の課題解決に尽力していく所存です。