セッション詳細

ローカルエコーチェンバーのステアリング:認知科学的介入の成果と展望

2026年9月1日(火) 9:30 〜 11:30
2階 OS会場5(BNC209)
オーガナイザー:森田 純哉、大本 義正、竹内 勇剛、遠山 紗矢香、市川 淳、高口 鉄平、遊橋 裕泰(静岡大学)
要旨

本講演では、RISTEX「デジタルソーシャルトラスト」プログラムで進めてきた研究プロジェクトの背景と全体像を説明する。情報空間における信頼の揺らぎや社会的分断を、個人の認知過程、情報環境、地域社会の制度や実践の相互作用として捉え、ローカルなエコーチェンバーを把握し、望ましい方向へとステアリングするための研究課題を整理する。あわせて、本セッションで報告する各研究事例の位置づけと相互関係を示す。
趣旨説明(PDF)


2.研究事例1
タイトル
地域におけるトラストの経済評価

講演者
高口鉄平(静岡大学)

要旨
本講演では、地域社会における信頼を経済的な観点から把握し、評価するための研究について報告する。自治体、地域組織、住民の間に形成される信頼は、情報共有や合意形成、地域活動への参加に影響を与える一方、その効果を直接測定することは容易ではない。そこで、住民意識や地域との関係性に関する調査をもとに、信頼が地域における選択や行動、社会的・経済的価値とどのように関連するかを検討する。


3.研究事例2
タイトル
地域SNSデータに基づく情報流通と信頼形成のシミュレーション

講演者
大本義正、遊橋裕泰(静岡大学)

要旨
本講演では、地域SNSにおける投稿や利用者間の相互作用を対象として、情報流通と信頼形成の過程を分析・再現するシミュレーション研究について報告する。地域SNSでは、関心や価値観の近い利用者の間で情報が循環し、局所的なエコーチェンバーが形成される可能性がある。実際の地域SNSから得られた知見をもとに、掲示板シミュレーションを用いて利用者の選択性質や情報への反応が、意見の偏り、コミュニティ形成、投稿行動 情報環境の変化に及ぼす影響を検討する。


4.研究事例3
タイトル
異なるコミュニティに属する情報の信頼性に関するリテラシー教育認知科学に基づくリテラシー教育の実践研究と教育実践の往還による情報環境への介入

講演者
遠山紗矢香、市川淳(静岡大学)

要旨
本講演では、異なるコミュニティに属する情報の信頼性を判断し、多様な立場を踏まえて意思決定する力を育成するためのリテラシー教育実践について報告する。エコーチェンバーや偽・誤情報の問題に対しては、これらの現象について知識を一方向的に伝達するだけでなく、学習者自身の行動を振り返ってが情報の選択や解釈の偏りに気づくことが重要だと考えられるである。本研究を通じて認知科学的な理論や実験研究の知見を教育活動へ導入するとともに、実践から得られた知見を再び認知研究へ還元することを目指す 往還的な研究枠組みを検討する。


5.招待講演
タイトル
地方自治体における信頼形成に向けて

講演者
木村泰知(小樽商科大学)

要旨
本講演では、地方自治体と住民の信頼形成に向けて、政治学、経済学、情報学の研究者が連携して進めている研究のうち、主に情報学的手法による調査を報告する。近年、地域社会において、住民と自治体の関係は、「顔が見える関係」から「サイバー空間を介した関係」へと変化している。例えば、町内会やお祭りなどを通じてつながっていた関係が、デジタル化を背景に希薄化している。このような状況を踏まえ、議会会議録、自治体広報誌、SNS等のテキストデータの分析を中心に、自治体と住民のコミュニケーションをめぐる調査の概要を報告する。


6.パネル討論
タイトル
ローカルエコーチェンバーをいかにステアリングするか――認知研究から地域実践へ

司会
竹内勇剛(静岡大学)

趣旨
本討論では、各講演で示された経済評価、地域SNS分析、シミュレーション、教育実践、自治体情報分析の知見を横断し、地域社会における信頼形成への介入可能性を検討する。エコーチェンバーを単に解消すべき問題として捉えるのではなく、地域内の関係性や情報環境を尊重しながら、どのように多様な情報や他者との接点を設計できるかを議論する。認知科学の知見を社会実装へ接続する際の課題と今後の研究展望を整理する。