第63回日本油化学会年会

学会賞等受賞講演


 

<学会賞>

学会賞は油化学または油化学工業に顕著な功績のあった研究成果に授与する当学会で最も権威のある賞です。

水産油脂の栄養機能に関する研究

福永 健治

(関西大学)

 

<受賞理由>

未利用水産資源に着目した本研究は、油化学の発展に新たな視点をもたらす重要な成果である。特に、高度不飽和脂肪酸およびそのグリセロリン脂質の有用性を解明し、がんや脂質代謝異常の改善効果を実証したことは、油化学の基礎研究のみならず、栄養機能の向上や産業応用の可能性を大きく広げるものである。その社会的意義は高く、ヒトの健康寿命延伸への貢献も期待される。

 さらに、本研究は新規脂質の合成に加え、パイロットプラント規模での抽出・精製技術の確立に至り、経済性や持続可能な開発目標(SDGs)の視点からも、実用化へ向けた極めて広範な研究成果を示した。これらの成果は、油化学および油化学工業の発展に顕著な影響を与えるものであり、その卓越した貢献を高く評価し、ここに学会賞を授与することとした。


<工業技術賞>
工業技術賞は油化学工業における顕著な技術成果に授与します。 

確かな分析技術に基づく 高付加価値な 「健康オイルこめ油」 の製品化と次世代型の開発に向けた戦略

澤田 一恵

築野食品工業株式会社  

松木  翠

築野食品工業株式会社

橋本 博之

築野食品工業株式会社

小倉 由資

東京大学大学院

伊藤 隼哉

東北大学大学院

仲川 清隆

東北大学大学院

築野 卓夫

築野食品工業株式会社

<受賞理由>

まず、受賞者らが、こめ油に含まれる種々の機能性成分のそれぞれの総量を正確かつ迅速に測定できる分析技術を確立して、一連の機能成分の含量を保証した 「健康オイル こめ油」 というコンセプトを満たす製品の開発につなげたことを高く評価した。

 さらに、様々な機能を有する各機能性成分の分子種を個別に測定できる分析法の開発に取り組み、特に、こめ油に特徴的な機能性成分であるγ-オリザノ-ルの分子種分析法を確立して、新たな分子種の発見と作用機序を解明し得る技術を構築した。本技術によって、「次世代型 健康オイルこめ油」 へと展開が期待されることも考慮し、工業技術賞を考慮することとした。


<進歩賞>
進歩賞は若手の優秀な研究成果に授与します。

生産酵母の改良によるバイオサーファクタントの量産化と構造制御に関する研究

雜賀 あずさ

産業技術総合研究所

<受賞理由>
マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)は、環境負荷の低減と持続可能な産業発展に貢献する重要なバイオサーファクタントの一種である。本研究では、その生産性向上を目指し、生産酵母の構造解析と遺伝子工学的手法を駆使することで、従来の2倍に及ぶ生産性向上を実現した。この革新的な成果は、オレオサイエンス分野における基盤技術の発展のみならず、関連産業の環境対応力強化に大きく寄与するものであり、持続可能な生産プロセスの実現に向けた重要な一歩となる。従来の知見を大きく革新し、科学技術の進歩を促進する成果として高く評価されることから、ここに進歩賞を授与することとした。