講演情報

[12001-08-02]回盲部切除後20年以上を経てビタミンB12欠乏による亜急性連合性脊髄変性症を呈した一例

*竹村 葉子1、山本 由布3,4、橋本 恵太郎2,1、前野 哲博2,1 (1. 筑波大学附属病院 総合診療科、2. 筑波大学 医学医療系 地域医療教育学、3. セントラル総合クリニック 総合診療科、4. 筑波大学 医学医療系 地域総合診療医学)

キーワード:

ビタミンB12欠乏症、亜急性連合性脊髄変性症、回盲部切除術

【背景】ビタミンB12は回腸末端で吸収されるため、回腸切除や炎症性腸疾患はビタミンB12欠乏のリスク因子であり、造血障害に加え脊髄後索障害などの神経障害を生じ得る。回腸切除が広範囲であるほど、ビタミンB12欠乏のリスクが高い。ビタミンB12は肝臓に貯蔵され、欠乏が生じるまで通常5年前後であり、高リスク群では長期的なモニタリングが必要である。回腸切除後の患者群を術後15年まで追跡した報告も存在するが、20年以上の長期経過における発症リスクについては、明らかとなっていない。
【症例】40代女性。10代でクローン病による回盲穿孔に対し回盲部切除術(100 cm)を受け、術後以外にビタミンB12製剤の補充がされていなかった。1か月半前からの下肢脱力を主訴に当科を受診した。膝に力が入らず這って移動するようになり、「足底に皮が2枚入っているよう」「下を向かないと怖くて歩けない」と訴えた。身体所見では筋力低下はなく、Romberg徴候陽性、両側下肢振動覚低下を認めた。血液検査で、軽度の大球性貧血と血清ビタミンB12低下(163 pg/mL:基準値180~914 pg/mL)を確認し、ビタミンB12欠乏による亜急性連合性脊髄変性症と診断した。内服補充を開始し、約1ヶ月で歩行障害は改善傾向となった。
【考察】 本症例は回盲部切除術から22年後にビタミンB12欠乏による神経障害を呈した。長期間を経て発症した理由として、ビタミンB12の肝臓の貯蔵量の枯渇だけではなく、食事からの吸収量の変化やクローン病・術後の合併症としての腸内細菌叢の変化、薬剤性といった要因が複合的に作用したと推測する。大球性貧血を伴わない例や神経症状と貧血の程度が相関しない例もあり注意を要する。プライマリ・ケア医として、術後長期的に異常なく経過していたとしても、ビタミンB12欠乏を念頭においたフォローアップが重要である。