講演情報

[12001-08-05]がん終末期の63歳男性に、夫婦の個別面談を行い家族外出につなげることができた事例

*橋本 晴子1、密山 要用1 (1. 王子生協病院)

キーワード:

家族志向のケア、緩和ケア

【背景】がん患者の終末期においては、本人の希望と家族の理解をすり合わせ、望む療養環境を整えることが重要である。本症例では、価値観を整理し、家族間対話を支援することによって、死期が迫る中で本人と家族の希望の実現につなげ得た事例を経験したので報告する。
【症例】脳性麻痺により左半身不全麻痺と構音障害のあるMさんは、妻と3人の子どもと暮らしていた。X年4月に直腸癌と診断され、同年8月に肺・胸椎転移が判明、化学療法・放射線療法を経てX+2年2月に抗がん治療中止となった。8月に両下肢麻痺が出現し、尿路感染症の併発があり、加療目的で当院入院した。Mさんは病状悪化を受け入れられず、終末期療養の方針も未定の中、8月下旬に「ハンバーガーを食べに行きたい。」と希望を示した。本人は関係性の良い姪と外出するか、入院前は家庭内別居状態だった妻と外出するか迷い、外出計画は進んでいなかった。10月より担当となった筆者は家族アセスメントにより、夫婦は回避-距離パターンであり妻は過剰責任者の状態にあり、夫婦間で十分な対話の時間がとれていないと判断し、夫婦で終末期の療養計画について話し合う機会の設定が必要と考えた。本人、妻と個別面談の結果、夫婦対話を促し、最終的に家族外出が実現した。M氏は「行けてよかった。」と満足の言葉を残し、外出数日後に逝去した。
【考察】本症例では、夫婦関係の複雑さから患者の外出希望が具体的計画に結びついていなかったが、家族アセスメントを通してその背景にある「関係性のパターン」と「心理的構造」を把握し、夫婦間の対話を促す介入をした結果、家族での外出が実現した。終末期には限られた時間で意思決定を迫られることがある。家族アセスメントは関係性の可視化により意思決定支援を行う有効な手段である。