講演情報

[12001-08-06]両側季肋部痛を契機に前立腺癌多発骨転移の診断に至った一例

*布村 丈史1、林 亮佑2、安藤 崇之1 (1. 慶応義塾大学病院 総合診療教育センター、2. 安房地域医療センター 総合診療科)

キーワード:

脊椎・脊髄由来の腹痛

【背景】腹痛は頻度の高い症候の一つである。緊急性の高い疾患が含まれることや、関与しうる臓器が多彩で鑑別疾患が多いことなどから、苦手とする医師も多いと思われる。今回、両側季肋部痛を主訴に診断に至った前立腺癌多発骨転移の症例を経験したので報告する。【症例】ADL全自立の84歳男性。2025年4月初旬から両側の季肋部痛を自覚。5月上旬に近医クリニックを複数箇所受診し鎮痛薬処方にて経過観察となっていた。その後も改善なく5月下旬に当院救急外来を受診。血液検査と腹部単純CT検査で異常所見なく、鎮痛薬処方で帰宅となった。その後も改善乏しく5日後に救急要請にて来院した。両側肋弓下(デルマトームでTh8-9相当)に自発痛を認め、体動や姿勢変化で疼痛が変化する鋭い痛みであり、圧痛や反跳痛は陰性であった。胸腹部造影CTを撮像したところ、第8胸椎に造骨性変化を認めた。後日追加採血でPSA 384 ng/mLの高値、MRIで多発骨転移像の他、第8胸椎の膨張性変化とそれに伴う胸髄の圧排所見と信号変化、両椎間孔狭窄を認めた。6月中旬~下旬には両下肢の疼痛・脱力感も出現した。原発巣として前立腺癌を疑い泌尿器科へ紹介し、生検で前立腺癌の診断に至った。【考察】腹痛診療において内臓病変が明らかでない場合の鑑別として、腹壁由来の疼痛がある。代表的なものに前皮神経絞扼症候群(ACNES)が挙げられるが、他に脊椎・脊髄由来の腹痛も存在する。例えば胸椎の圧迫骨折や椎間板ヘルニアは腹痛を来すことがあり、本症例は骨転移による神経根の圧排から腹痛を生じたと思われる。遭遇する頻度は高くないが、あまり知られていないことから見逃されている例も多いと思われる。原因不明の腹痛を見た際にはこれらも鑑別に挙げることを念頭に置くべきである。[1] 総合診療34(10):1168-69.2024.