講演情報

[12001-08-07]延髄梗塞を伴った小脳梗塞による反復性嘔吐の一例

*村上 純一1、吉田 絵里子2、金子 優美香3、宮本 好美2、和田 浄史4 (1. あさお診療所 後期研修医、2. 川崎協同病院 総合診療科、3. 昭和医科大学医学部内科学講座 脳神経内科学部門、4. 川崎協同病院 外科)

キーワード:

延髄梗塞、小脳梗塞、中枢性嘔吐

【背景】延髄にある嘔吐中枢には、化学受容器引金帯(CTZ)が存在し、延髄梗塞は、悪心を伴わない嘔吐の原因となりうる。
【症例】75歳男性。来院当日よりめまい、歩行障害、頻回の嘔吐を発症し救急搬送された。頭部MRIで新規右小脳梗塞所見を認め、抗血小板薬による治療を開始した。その後、食事に無関係に前兆なく嘔吐を繰り返した。嘔吐の鑑別として、薬剤性(抗血小板薬、スタチン)、胆石症、便秘、胃潰瘍を考えた。その後精査を行い、いずれも否定的であった。嘔吐が数週間にわたり断続的に持続していること、悪心なく突然嘔吐が発生すること、食事のタイミングや体位に関係なく嘔吐すること、MRCPで明らかな胆嚢炎や胆嚢結石嵌頓や胆管結石を認めないこと、腸閉塞兆候も認めないことから、神経内科にコンサルトした。神経学的診察で右小脳性運動失調に加えて、体幹失調および右顔面感覚の低下を認め、延髄梗塞が合併している可能性を指摘された。脳幹領域を中心にスライス数を増やして頭部MRIを再評価したところ、右延髄外側梗塞所見を認めた。右椎骨動脈は高度狭窄があり、同一血管支配領域の後下小脳動脈領域と延髄領域にアテローム血栓性機序で脳梗塞をきたしたと考えられた。塩酸メトクロプラミドや芍薬甘草湯内服では頻回嘔吐は継続したが、ドンペリドン内服で嘔吐頻度は軽減し、第79病日に自宅退院した。
【考察】延髄最高野にあるCTZは血液脳関門がなく、様々な刺激で嘔吐中枢を活性化する。本症例では同一血管支配領域の小脳・延髄梗塞により、CTZ周辺の梗塞が難治性嘔吐の原因と考えられた。制吐には、ドパミン受容体拮抗薬が部分的に有効であった。神経診察に加えてスライス設定の工夫によるMRI再評価が、原因検索の手がかりとなった症例であった。