講演情報

[12009-15-01]しまうまを知らなければ探せない― 多発性内分泌腫瘍(MEN)2症例から学ぶ診療のバランス ―

*木原 進1、安藤 崇之1 (1. 慶應義塾大学病院総合診療科)

キーワード:

診断推論、zebra hunting

【背景】多発性内分泌腫瘍(MEN)は希少な遺伝性疾患であり、一般診療で遭遇する機会は少ないが家庭医が初期対応を担う若年の高血圧や腫瘍の症例の中に、その端緒が隠れている場合がある。プライマリ・ケア医が早期に疑い、適切な遺伝学的評価と専門医への紹介ができるかが予後に影響しうる疾患である。 【症例1】63歳男性。10代で膵腫瘍を切除。2001年、胃カルチノイドを契機に膵腫瘍を再切除。2023年、甲状腺腺腫に伴う原発性副甲状腺機能亢進症を診断され、既往からMEN1を疑った。2025年、下垂体MRIで巨大腫瘍を認め切除したが全摘困難で残存腫瘍を認め、術後に味覚障害が残存した。若年発症時に遺伝性疾患を想起しなかったことが長期的影響につながった。 【症例2】45歳男性。2006年の健診で高血圧と腎障害を指摘され、精査で褐色細胞腫を診断。同時に巨大結腸症・口唇粘膜神経腫を認め、RET遺伝子変異よりMEN2Bと確定。甲状腺髄様癌に対し手術・分子標的薬を導入。その後、副腎不全を繰り返し、2025年には嘔気・倦怠感で入院。ステロイド補充・甲状腺ホルモン調整で軽快した。 【考察】症例1は「若年発症の腫瘍の診断時の遺伝性疾患の想起」、症例2は「若年高血圧に潜む二次性疾患の想起」の重要性を示唆している。家庭医には、こうした希少疾患を想起できる能力も重要である。一方で、“Zebra Hunting”が患者中心のケアを損ねる可能性も報告されており、過剰診断を避けるバランス感覚も求められる。本症例を通じ、大学病院での研修経験が家庭医としての診断力と省察を深める貴重な契機となった。希少疾患を知ることは診断力を高めるが、「しまうまを知らなければ探せない」「しかし馬にシマ模様を描きすぎない」という二面性を意識した診療が、プライマリケア医には必要である。