講演情報
[12009-15-05]事前指示と異なる意思決定を支えた対話の重要性-胃瘻造設をめぐる神経難病患者の一例-
*大野 智子1、井上 有沙2、小野 優里1、田中 孝典1、森 瑞樹1、周佐 峻佑1、渡邊 健太1、鈴木 諭1 (1. 利根中央病院、2. 前橋協立診療所)
キーワード:
ACP
【背景】意思決定支援において,ACPでは対話を重ねることが重要とされている.胃瘻造設しないという事前指示があった神経難病患者で嚥下機能廃絶を認めた際に,家族と多職種で対話を重ねることで胃瘻造設に至った症例を経験し,意思決定支援の在り方について考察した.【事例】60代男性,6年前に脊髄小脳変性症を発症.近年は誤嚥性肺炎で入退院を繰り返し,そのたびに胃瘻が提案されたが,本人は一貫して胃瘻造設しないという意向を示していた.今回も誤嚥性肺炎で入院し,治療後の嚥下機能評価で経口摂取は不可能と判断された.原疾患の進行により疎通はほぼ不可能であったため,代理意思決定者の妻と多職種チームで今後の方向性を相談した.妻は本人の当初からの意向と,「生きていてほしい」という自身の思いの間で葛藤していたが,本人が妻に対し「家に帰りたい」という意思表示をしたこともあり,胃瘻造設によって自宅退院を可能にし,妻の思いも尊重できると考え,多職種チームもそれを支持して胃瘻造設するに至った.【考察】終末期の治療選択は複雑で不確実性を帯び,感情にも影響され流動していくものであり,さらに患者の意向は年齢,身体や認知機能,文化,家族の意向,介護者の負担等の様々な因子に影響を受けて揺れ動くことから,ACPの実践では対話を重ねるプロセスが重要とされている.本症例では,事前指示があったものの,原疾患の進行により経口摂取が不可能となった時点で,家族や多職種で再度話し合い,病状や予後,本人や妻の思いを共有した.そのプロセスを経て,妻の「生きていてほしい」気持ちと,本人の「家で過ごしたい」気持ちを尊重しうる選択として胃瘻造設するに至った.現在自宅で穏やかに過ごされ,妻も胃瘻造設を肯定的に捉えている.事前指示をもってすぐに結論づけることなく,変化を受けてさらに対話を進めることが意思決定支援において重要であると感じた.
