講演情報

[ES6-2]細胞系譜解析を応用した生命現象の理解

*加来 賢1 (1. 新潟大学大学院医歯学総合研究科 生体歯科補綴学分野)
PDFダウンロードPDFダウンロード
天然歯の維持に重要な歯根膜は,多様な細胞を含み,これらを維持する細胞源として豊富な幹細胞を保持していると考えられている.歯根膜から単離した細胞が培養条件下で高い幹細胞能を示すことは確認されている一方,その組織内局在や分化動態には未解明な点が多く,これが歯根膜再生の障壁の一つとなっている.従来,歯根膜幹細胞の局在や分化系譜の解析には,Gli1遺伝子に代表される特異的な遺伝子発現に基づく細胞追跡法が用いられてきた.この方法では,標識された細胞群を長期にわたり高精度で追跡できるが,組織全体の幹細胞を網羅的に検出することは困難であった.そこで我々は,幹細胞の分化と細胞増殖活性の相関に着目し,誘導性多色蛍光ラベリングを用いて,発生,リモデリング,再生といった多様な生理的条件下における歯根膜細胞の増殖挙動と系譜動態を解析した.その結果,発生および再生過程において,セメント質表面に単一細胞由来の細胞クラスターが形成されることを確認した.この結果は幹細胞の局在を強く示唆するものであり,従来考えられていた「歯根膜幹細胞は骨近傍の血管周囲に局在する」とする概念とは異なり,セメント質近傍にも組織幹細胞が存在する可能性を示唆するものである.本発表では,誘導性多色蛍光ラベリングによって得られた歯根膜の組織内細胞動態データを基に,今後の研究展開と応用について議論したい.