講演情報
[ES6-3]細胞系譜解析を応用した生命現象の理解
*土佐 郁恵1 (1. 岡山大学学術研究院 医歯薬学域 口腔微生物学分野)
Cre-LoxP技術は,特定の細胞集団における遺伝子組換えを時空間的に制御できる強力なツールであり,発生生物学や細胞系譜解析に広く用いられている.本技術は,大腸菌由来のCreリコンビナーゼとその標的配列であるLoxPを利用し,特定の細胞における遺伝子の欠失,挿入,または逆位を誘導することで,細胞運命の追跡や機能解析を可能にする.細胞系譜解析では,Cre依存的な蛍光レポーターマウスを用いることで,特定の細胞系列を可視化し,その分化や増殖を長期間にわたって追跡できる.例えば,発生過程における幹細胞の分化を解析するために,組織特異的プロモーターを用いたCre発現系を導入し,標的細胞のみを標識することが可能である.さらに,Tamoxifen誘導性のCreERT2を用いたインデューシブルCreシステムにより,時間制御的な細胞運命マッピングも実現できる.歯科領域においては,歯・歯周組織発生や抜歯窩治癒に関与する組織幹細胞の同定などに応用されている.今後,シングルセル解析技術やIn situ hybridizationなどの手法と組み合わせることで,より高解像度な細胞系譜解析を行い,疾患の発生メカニズムの解明や個別化医療の発展に貢献することが期待される.本セッションでは,Cre-LoxP技術を応用した細胞系譜解析の基礎と応用を概説し,最新の研究成果を紹介する.