講演情報
[MSY-1]顎関節症の既往がある患者において咬合位を変化させる場合の考え方
*窪木 拓男1 (1. 岡山大学学術研究院 医歯薬学域 インプラント再生補綴学分野)
キーワード:
顎関節円板障害、下顎位の変化、咬合再構成
いわゆる顎関節症の治療法を論じる際に,一番重要な観点は,Evidence-based Medicine (EBM)としての捉え方である.臨床現場における「現実realism」を伝える証拠に基づいて,臨床を組み立てる姿勢が不可欠であり,このようにして作られたステートメントが,「米国歯科研究学会(AADR)によるTMD基本声明に対する日本補綴歯科学会の基本姿勢」である.日本補綴歯科学会では,この AADR による顎関節症の診断と治療に関する基本声明が,現時点における最も標準の見解であり,これに従って顎関節症の診断と治療が行われるかぎり,それが多くの顎関節症患者にとって福音となるものと認め,ホームページ< https://www.hotetsu.com/s/doc/aadr1.pdf >等で公表している.その基本方針は,顎関節症治療においては,咬合再構成など非可逆的治療を避け,保存療法を優先させることである.しかし,この基本方針は,必ずしも,咬合と顎関節症には関係がないと述べているわけではなく,顎関節症の症状を改善するために咬合治療を行うことの妥当性が十分認められないと述べているだけなのである.一方,顎関節症の症状が消退した患者において,矯正治療をしたり,フルマウスリコンストラクションを行うことは十分あり得るわけであるが,その際の注意点に関しては十分理解されているとは言えない.本講演では,これまでの顎関節症治療の考え方をまとめるとともに,その上で,下顎位の変化を与える必要がある際の考え方について,現在の知識をまとめて紹介したい.