講演情報
[P-8]江戸時代の材料と方法で再現した木床総義歯の咀嚼能力
*吉田 和也1 (1. 国立病院機構 京都医療センター 歯科口腔外科)
【目的】
日本ではすでに16世紀前半に世界最初の陰圧によって保持する総義歯が使用されていた1),2).本研究は400年前の江戸時代と同じ材料と方法で木床総義歯を再現し,その咀嚼能力を検証することを目的とした.
【方法】
90歳女性の上顎に木床総義歯を製作した.上顎を温水で軟化した蜜蝋で印象し,その印象に軟化した蜜蝋を圧接して作業模型とした.作業模型に食紅を塗布し,ツゲの木をノミで彫って作製した義歯床に圧接し,印記した部分を彫刻刀でさらに削合した3).被験者の歯槽頂部に食紅を塗布し,義歯床の適合を微調整した.人工歯は象牙で作製し,口蓋側を鳩尾形に彫り,義歯床に麦漆(生漆に小麦粉を練和した漆)で固定した(図1).咀嚼能力はグミゼリーテスト(ジーシー社製グルコセンサーGS-Ⅱ)と咬合力測定(ジーシー社製デンタルプレスケールⅡ)を行い,現在使用中の義歯と木製義歯を比較した.
【結果と考察】
木床義歯の咀嚼能力 (185 mg/dL) は現在使用中の義歯 (209 mg/dL) よりも低かった.平均咬合力は木床義歯 (31.8 MPa) が現義歯 (31.4 MPa) よりもわずかに高かった.
世界で最初の陰圧による総義歯は16世紀前半に日本で使用されていた1),2).一方,欧米では19 世紀になってようやく陰圧による総義歯が臨床応用されるようになった.現在まで残存している木床義歯の咬合面の咬耗から判断して,咀嚼能力が十分に発揮できていた可能性が推測される.本研究の結果,木製の総義歯の咀嚼能力は現代の義歯に匹敵することが確認された.日本の木製義歯は義歯の発展において重要な意味を持っていると考えられた.
【参考文献】
1) 石井保雄.1538年(天保7年)以前につくられたと思われる木彫上顎総義歯ならびに木床義歯の維持方法についての考察.歯界展望 1976;47:766-768.
2) Yoshida K. Wooden plate denture reproduced using materials and methods from 400 years ago. Cureus 2024;16:e75641.
3) Yoshida K. Japanese wooden plate denture as origin of suction retention. J Hist Dent 2024;72:74-88.
日本ではすでに16世紀前半に世界最初の陰圧によって保持する総義歯が使用されていた1),2).本研究は400年前の江戸時代と同じ材料と方法で木床総義歯を再現し,その咀嚼能力を検証することを目的とした.
【方法】
90歳女性の上顎に木床総義歯を製作した.上顎を温水で軟化した蜜蝋で印象し,その印象に軟化した蜜蝋を圧接して作業模型とした.作業模型に食紅を塗布し,ツゲの木をノミで彫って作製した義歯床に圧接し,印記した部分を彫刻刀でさらに削合した3).被験者の歯槽頂部に食紅を塗布し,義歯床の適合を微調整した.人工歯は象牙で作製し,口蓋側を鳩尾形に彫り,義歯床に麦漆(生漆に小麦粉を練和した漆)で固定した(図1).咀嚼能力はグミゼリーテスト(ジーシー社製グルコセンサーGS-Ⅱ)と咬合力測定(ジーシー社製デンタルプレスケールⅡ)を行い,現在使用中の義歯と木製義歯を比較した.
【結果と考察】
木床義歯の咀嚼能力 (185 mg/dL) は現在使用中の義歯 (209 mg/dL) よりも低かった.平均咬合力は木床義歯 (31.8 MPa) が現義歯 (31.4 MPa) よりもわずかに高かった.
世界で最初の陰圧による総義歯は16世紀前半に日本で使用されていた1),2).一方,欧米では19 世紀になってようやく陰圧による総義歯が臨床応用されるようになった.現在まで残存している木床義歯の咬合面の咬耗から判断して,咀嚼能力が十分に発揮できていた可能性が推測される.本研究の結果,木製の総義歯の咀嚼能力は現代の義歯に匹敵することが確認された.日本の木製義歯は義歯の発展において重要な意味を持っていると考えられた.
【参考文献】
1) 石井保雄.1538年(天保7年)以前につくられたと思われる木彫上顎総義歯ならびに木床義歯の維持方法についての考察.歯界展望 1976;47:766-768.
2) Yoshida K. Wooden plate denture reproduced using materials and methods from 400 years ago. Cureus 2024;16:e75641.
3) Yoshida K. Japanese wooden plate denture as origin of suction retention. J Hist Dent 2024;72:74-88.