講演情報

[P-10]油性成分を主体とした粘膜保護義歯安定剤の主観的評価-クロスオーバー比較試験-

*竹内 みのり1、竜 正大1、上田 貴之1 (1. 東京歯科大学老年歯科補綴学講座)
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【目的】
 総義歯治療において,高度な顎堤吸収や口腔乾燥は義歯の維持不良の原因となりやすい.義歯の維持不良に対しては適合の改善に加え,義歯安定剤の使用による維持力の向上も有効である.現在市販されている義歯安定剤は,主に唾液と接触することで効果を発揮する.今回我々は,唾液との接触に依存しない,油性成分を主体とした粘膜保護義歯安定剤に着目し,総義歯装着者に適用した際の患者による評価を検証することを目的とした.
【方法】
 東京歯科大学水道橋病院補綴科を受診した上顎または下顎,もしくは上下顎総義歯装着者のうち,義歯の適合が良好で義歯安定剤を使用していない患者21名(男性11名,女性10名,平均年齢74±9歳)を対象とした.粘膜保護義歯安定剤と市販義歯安定剤をランダムに割り付け2週間使用させたのち,2週間のウォッシュアウト期間を設定し,その後他方の義歯安定剤を使用させるクロスオーバー比較試験を行った.各義歯安定剤使用前後に,患者による義歯の満足度と安定感の評価を行った.また,各義歯安定剤使用後に,義歯安定剤の使用感,効果持続時間,除去のしやすさについて評価を行った.義歯安定剤の効果持続時間以外の評価にはvisual analogue scale(VAS)を用いた.統計解析は,義歯の満足度と安定感については対応のあるt検定,義歯安定剤の使用感,効果持続時間,除去のしやすさついては反復測定分散分析を用いた.(α=0.05)
【結果と考察】
 義歯の満足度は,両義歯安定剤ともに使用前後で有意差を認めなかった.義歯の安定感は,両義歯安定剤ともに使用前後で有意差を認め,いずれも使用後に上昇した.義歯安定剤の使用感は,両義歯安定剤間に有意差を認めなかった.義歯安定剤の効果持続時間(平均±SD)は,粘膜保護義歯安定剤で3.9±3.6時間であったのに対し,市販義歯安定剤では5.8±5.5時間であり,両義歯安定剤間に有意差を認めた.義歯安定剤の除去のしやすさ(平均±SD)は,粘膜保護義歯安定剤で5.7±3.7であったのに対し,市販市販義歯安定剤で2.8±2.8であり,両義歯安定剤間に有意差を認めた.以上の結果より,粘膜保護義歯安定剤は市販義歯安定剤と同様に義歯の安定感を向上させるとともに,除去のしやすさについては市販義歯安定剤よりも有利であることが示唆された.尚,本発表に際しては患者からの同意を得ている.