講演情報

[P-129]即時義歯製作における口腔内スキャナーの活用

*山本 悠1、加来 賢1 (1. 新潟大学生体歯科補綴学(歯科補綴学))
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【緒言】
 口腔内スキャナー(IOS)は,非接触で高精度な印象採得が可能であり,多様な補綴臨床において広く活用されている.IOSを用いることで,脱離寸前の補綴装置や著しい動揺歯が存在する症例においても,非破壊的に印象採得を行うことが可能である.本報告では,全顎的な補綴介入の一環として即時義歯を装着した2症例について,IOSを用いた治療計画およびその有効性を検討した.
【症例の概要・治療内容】
 症例1: 患者は74歳,女性.「上の歯が揺れだした」を主訴に受診.5⏈5の固定性ブリッジが装着されていたが,⎿5以外は補綴装置が支台歯と分離し動揺していた.しかし,咬合時には補綴装置が定位置に復位し,咬頭嵌合位は安定していた.即時義歯の装着を計画し,IOS(Primescan,Dentsply Sirona)を使用して,補綴装置の変位を最小限に抑えながら印象および咬合採得を行った.その後,CADソフト(Medit Link,MEDIT)で,旧補綴装置の除去と抜歯を想定したモデルを設計した.3Dプリンターを用いて顎間関係を保存した模型を出力し,従来法(ノンデジタル)で即時義歯を製作した.次回来院時,旧補綴装置の除去と即時義歯の装着を行った.症例2: 患者は53歳,女性.「上の歯が抜けそう」を主訴に受診.3⏈3の固定性ブリッジが装着されており,残存歯の多くは重度歯周炎により動揺度3度に相当であった.即時義歯の装着を計画し,IOS(DEXIS3800W,Nobel Biocare)を用いて印象採得を行った.咬頭嵌合位では上顎前歯部に突き上げが見られ,臼歯部では補綴装置のクリアランス不足が確認されたため,咬合挙上目的で臼歯部にシリコンバイト材を介在させて咬合採得を行った.その後,症例1と同様にモデルを設計し,従来法で即時義歯を製作した.次回来院時,旧補綴装置の除去と即時義歯の装着を行った.
【経過ならびに考察】
 従来の印象材料を用いた場合,補綴装置の脱離や顎間関係の喪失が治療の複雑化を招き,来院回数が増加する可能性があった.一方,IOSを活用することで,補綴装置の脱離や残存歯の脱落リスクを回避でき,高精度な補綴装置の提供と患者の負担を軽減に有効であった.本手法は,同様の症例における有効な治療選択肢となり得ると考えられる.なお,本発表に際し,患者の同意を得た.