講演情報

[P-135]主機能部位咬合論を応用し咀嚼機能回復した全部床義歯症例

*寺尾 陽一1、黒松 慎司2、高藤 雅1、山本 司将1、中村 健太郎1 (1. 東海支部、2. 関西支部)
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【緒言】
 義歯の臼歯部人工歯は,義歯における咀嚼効率に影響を与える大きな要素である.しかし臼歯部人工歯の大きさや排列の指標について不分明とされることは否定できない.臼歯部人工歯の近遠心径は臼歯4歯の総和で表現され,犬歯遠心端からレトロモラーパッドの前縁までの距離を模型上で計測し人工歯を選択すると規定されるが,天然歯と比較して明らかに近遠心径は小さく,必然的に咬合面も小さくなるため咀嚼効率の向上は期待できない.加藤が提唱している主機能部位咀嚼理論1)を第一大臼歯の近遠心的な排列位置の基準として応用し,その基準をみたす調整人工歯を作製した全部床義歯症例について報告する.
【症例の概要・治療内容】
 患者は84歳女性.主訴は上顎前歯部の咀嚼時痛である.総合難易度評価はOSQYでCTD4である.保存不可能な下顎残存歯を抜歯し,全部床義歯を作製することを提案し同意を得た.義歯作製にあたり,垂直的顎間関係はcentral bearing tracing deviceを用いて決定し,水平的顎間関係は治療用義歯を用いて咀嚼運動終末位の1点収束を確認し,決定した.作製した咬合床を試適し,長さ4㎜に切断したストッピング(テンポラリーストッピングホワイト,ジーシー,東京,日本)を約50℃で湯煎軟化し,舌中央部に乗せてから静かに閉口させ,左右側別に1回咬合させた.数回繰り返して下顎のストッピング圧平位置の再現性を確認できたことから,その部位を主機能部位と断定し,下顎第一大臼歯の近遠心的な排列基準とした.臼歯部人工歯には,咬合面をワックスアップし歯科用高分子製暫間クラウン及びブリッジ(ルクサクラウン,DMG,ハンブルク,ドイツ)に置換した調整人工歯を使用した.ろう義歯試適時に,ストッピングにて主機能部位が第一大臼歯に存在していることを確認し,通法に従い新義歯を完成させた.
【経過ならびに考察】
 義歯装着後疼痛や離脱等の不快症状はなく,グミゼリーによる咀嚼能率測定から咀嚼能力は著しく向上し,OHIP -J 54から口腔関連QOLも向上していることが確認できた.ストッピングを用いた主機能部位の観察が,第一大臼歯の排列位置の決定に有効であることが示唆された.
【参考文献】
1) 加藤均.主機能部位と臼歯部咬合面形態の機能的意義.日補綴会誌2013;5: 8-13.
(発表に際して患者の同意を得た)