講演情報

[P-142]ラグビー日本代表選手に対するスマートマウスガードによる歯科的サポート(第3報)

*中島 一憲1,3、宇津宮 幸正2,7、小枝 義典3,7、中陳 慎一郎2,7、月村 直樹6,3、眞田 淳太郎4、近藤 尚知5,3、松田 祐明1,3、筒井 新1、阪上 隆洋1、都合 晋司1、山崎 豪1、澁澤 真美1、佐藤 武司1、武田 友孝1,3 (1. 東京歯科大学 口腔健康科学講座 スポーツ歯学研究室、2. 日本ラグビーフットボール協会、3. 関東ラグビーフットボール協会、4. 日本大学 歯学部 歯科補綴学第Ⅱ講座、5. 愛知学院大学 歯学部 冠橋義歯・口腔インプラント講座、6. 日本歯科大学付属病院 総合診療科、7. 東京都)
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【緒言】
 2023年10月,World Rugbyは外傷性脳損傷などを起因とする神経変性疾患への対応策として,エリートレベルのラグビー選手に試合中や練習中のスマートマウスガード(iMG)(図1)装着を義務付けた.これはマウスガード内部に加速度センサー,ジャイロセンサー,Bluetoothモジュールおよびバッテリーを計装し,頭部にかかる衝撃をモニタリングしようとする試みである.これにより,脳損傷に繋がるような高い衝撃力が加わったかどうかをリアルタイムに,客観的に評価・監視することが可能となり,従来見過ごされてきた「明らかな徴候が認められない脳震盪(軽度の症状,あるいは極めて短時間に回復したもの)」についても警告することが可能となる.
 今回演者らは急遽日本ラグビーフットボール協会の依頼を受け,ラグビー日本代表チームへiMGの提供を行う機会を得たので報告する.なお,本報告に先立ち選手からの同意を得いている.
【症例の概要・治療内容】
 通法に従い,選手の上下顎歯列を印象採得し石膏模型とした.その後,歯科用3DデスクトップスキャナにてSTL形式の画像データに変換しPrevent社に送付,約3週後にiMGが返送された.選手の口腔内で咬合関係や辺縁形態を調整し,練習中・試合中の使用を指示した.
【経過ならびに考察】
 World Rugbyは,世界のラグビー協会の統括組織であり,ラグビーの各種国際大会の組織・運営を行っている.6つのリージョナルアソシエーションと132カ国の加盟協会で構成され,5億人以上のファンと1千万人のプレーヤーが参加している.これらのプレーヤーに対する安全対策として,World CupやリーグワンなどのエリートレベルではMatch Day Doctor(MDD)によるHead Injury Assessment(HIA)が行われており,より下位のレベルではRecognize & Remove(R&R)が採用され,脳損傷の重症化に備える対応が採られてきた.
 iMGの導入により,脳損傷につながる可能性のある高い衝撃を経験したかどうかをリアルタイムに感知し警告することが可能となる.ただし,マウスガードの提供は歯科医業であり,歯科医師の介入が必須条件となっている.また,口腔内スキャナの使用やiMGの外形などについても検討すべき余地が多く,iMG製作を担当する英国の企業との協議を実施している.