講演情報

[P-144]病院歯科においてフルアーチティースを用いた積層造形義歯を応用した無歯顎症例

*竜 正大1、小林 嵩史1、上田 貴之1 (1. 東京歯科大学 老年歯科補綴学講座)
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【緒言】
 CAD/CAMによる総義歯製作は,従来法と比較してチェアタイムや来院回数の削減,再製作の容易さといった様々な利点がある.しかし,現在主に流通している方法では,設計時に人工歯の排列位置を個別に設定,修正し義歯床に接着するため,設計に時間がかかることや接着時の偏位が生じやすいという問題点がある.
 今回我々は入院中の患者に対し, 14本の人工歯が連結された既製の人工歯であるフルアーチティースを用いて,効率的かつ良好な結果を得た積層造形義歯を装着した無歯顎症例を経験したので報告する.
【症例の概要・治療内容】
 患者は70歳の男性で脳梗塞のため地方都市病院に入院中であった.6年前に装着した上下顎総義歯を所持していたが,入院時から使用しておらず,装着したところ容易に脱離した.咀嚼能力は68mg/dLであった.人工歯排列位置を参考とするため当該義歯をスキャンし,フルアーチティース人工歯を使用した積層造形法による上下顎総義歯を製作することとした.
 まず義歯をモデルスキャナ(D2000, 3shape)でスキャンし,同形態の複製義歯を歯科用積層造形機(S-WAVE 3Dプリンター IMD-S, 松風)で製作した.複製義歯を用いて咬合採得と上下顎の咬合圧印象を行った.採得した印象と顎間関係をスキャンし,CADソフトウエア上で人工歯排列と歯肉形成を行った.試適用義歯を造形し試適したところ問題は認められなかった.上下顎義歯床を造形したものに人工歯(ベラシアSAフルアーチティース,松風)を設置し,バキュームシーラー(S-WAVEバキュームシーラー,松風)で真空化することで歪みが生じることを抑止して本重合を行った.人工歯を接着後,仕上げ研磨を行い装着した.
【経過ならびに考察】
 義歯の維持,安定および咬合接触状態は良好で,装着後の患者満足度も良好であった.義歯装着1か月後の咀嚼能力は112mg/dLまで向上した.
 本症例では患者の旧義歯をスキャンして複製義歯を製作し,それを用いて咬合採得と咬合圧印象を行った.これにより,入院中の患者に対し,旧義歯の形態を基にして適切な義歯の形態と顎位を記録することができた.加えて,人工歯にフルアーチティースを用いたことにより,CADソフトウエア上での人工歯排列や義歯床への接着を比較的短時間で行う事ができた.なお,本症例発表に際しては患者からの同意を得ている.