講演情報

[P-157]糖尿病に罹患した後期高齢者にオーバーデンチャーを用いて咬合再構成を行った1症例

*栗原 崇實1、根津 理沙子1、秀 みらい1、井上 太郎1、川本 章代1、高橋 一也1 (1. 大阪歯科大学 高齢者歯科学講座)
【緒言】
 糖尿病に罹患した後期高齢者に対する包括的歯科治療は,全身状態に加え健康寿命を考慮し行う必要がある.健康寿命を過ぎた高齢者では日常生活にさまざまな制限を生じることが多く,巧緻性の減少と共に清掃不良が増悪する可能性がある.また,糖尿病の罹患期間が長いと歯周病が悪化しやすく,血糖コントロールが不良であれば歯槽骨吸収のリスクが高いことも示されている.このように糖尿病に罹患した後期高齢者では,歯科治療において炎症の管理不良が疾患原因となることが多い.当症例では,主訴の改善だけでなく予知性の高い補綴装置設計にすることを試みた.
【症例の概要・治療内容】
 79歳男性.「歯が揺れて,食べにくい」を主訴として来院した.全身既往歴として高血圧,糖尿病.口腔内所見としては多数歯う蝕,不適合補綴装置,重度歯周疾患が見られ清掃不良であった.現在も配偶者の介護をしている.診断は「歯周病による咀嚼障害」とし,治療計画は再介入の可能性を考慮して上顎は総義歯,下顎をオーバーデンチャーとした.糖尿病(HbA1C≥9%)であったため,内科的な対診を依頼し,口腔衛生指導を行った.糖尿病のコントロール不良であったが,抜歯のベネフィットの方が上回ると判断し,抗菌薬を術前投与のうえ,抜歯を段階的に行なった.治療用義歯を製作時,咬合採得で再現性のある下顎位を獲得できなかったため,セントラルベアリングトレーシングデバイスを付与し,6か月の経過観察を行った.経過観察の期間に,残存歯の治療,粘膜調整,咬合調整を実施し,再現性のある下顎位への収束が確認された.その下顎位を継承し,残存歯に根面板を装着後,最終義歯を装着した.
【経過ならびに考察】
 治療後,咀嚼障害は改善し,歯周組織の状態も安定している.今回の症例は,糖尿病に罹患した後期高齢者に対して包括的歯科治療を行った.治療用義歯にセントラルベアリングトレーシングデバイスを付与しオーバーデンチャーとすることで,残存歯の治療と並行し,再現性のある下顎位を獲得することができた.歯周組織の安定が見られた残存歯を保存することで,歯根膜感覚・顎堤の保存が可能となり,すなわち残存歯の「生物学的安定要素」としての意義を達成できた。今後,歯周病が予後不良となった場合は抜歯と義歯修理で対応し,総義歯とすることも考慮すべきと考える.発表に際して患者の同意を得た.