講演情報
[P-159]顆粒状ハイドロキシアパタイトによる上顎顎堤改造症例
-32年間の経過報告-
*池田 菜緒1、濵野 徹1、西 恭宏1、佐竹 宣哲1 (1. 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 口腔顎顔面補綴学分野)
【緒言】
著明な顎堤吸収に至った上顎無歯顎症例には,上顎前歯部にフラビーガムを生じる場合が多く,上顎義歯の前上方への回転移動や前方移動とそれに伴う下顎位の変位を招きやすく,機能や審美性の回復が難しい.この問題に対して当分野では顆粒状ハイドロキシアパタイト(以下,HAP)による顎堤改造法を適用し報告してきた¹⁾.今回,32年前にHAPによる顎堤改造法を適用した症例についての長期経過を報告する.
【症例の概要・治療内容】
患者は初診時60歳男性.咀嚼障害を主訴に当科を受診した歯槽骨吸収著明な上下無歯顎症例であった.上顎に前歯部から小臼歯部での広範なフラビーガムを有したため,交叉咬合排列による全部床義歯を製作した.しかし,その後4年3ヵ月間義歯調整等を行ったが,義歯は推進し咀嚼機能の改善には限界があった.
1.上顎の顎堤改造
補綴的処置のみでの対応では上顎義歯の動きに対処できなかったため,HAPによる顎堤改造法の適応と判断し,局所麻酔下でフラビーガムの唇側の縦切開から骨膜下にトンネルを形成したうえでHAP(ボーンタイト,三菱マテリアル社)を填入し,義歯様シーネを下顎義歯からコイルスプリングで維持してHAPの固定後,フラビーガムを切除した.同部が骨様硬さに回復した時点でブレードティースを用いた義歯製作を行った.
2.経過
新義歯装着後,タッピング時の義歯の動きは著しく減少し,顔貌と咀嚼機能は改善した.その後,定期的リコールを継続し,咬合調整やリラインを適宜行ったが,その後ほぼ変化は認められなかった.12年経過後に,人工歯部の磨耗が大きくなったため,新たに金属歯を用いた新義歯を製作した.32年経過した現在でも,咀嚼機能に変化はなく,パノラマX線画像においてHAPは,上顎前方部で高さが減少したが,臼歯部では高さを保っていた.上顎前歯部顎堤の粘膜の被圧変位性はほぼ正常であり,タッピング時の義歯の動きは大きな変化がなく,審美性も保たれている.
【経過ならびに考察】
HAPを用いたフラビーガムの上顎顎堤を改造する方法は,義歯の安定性向上に有効であり,長期経過においても顎堤形態は保全され機能も維持されることが示唆された.
【参考文献】
1) 濵野徹,水流和徳,木下智恵ほか.上顎前歯部顎堤吸収が著明な無歯顎患者の容貌の改善-顆粒状ハイドロキシアパタイトを適用した1治験例-.歯科審美 1997; 9:309-316.
著明な顎堤吸収に至った上顎無歯顎症例には,上顎前歯部にフラビーガムを生じる場合が多く,上顎義歯の前上方への回転移動や前方移動とそれに伴う下顎位の変位を招きやすく,機能や審美性の回復が難しい.この問題に対して当分野では顆粒状ハイドロキシアパタイト(以下,HAP)による顎堤改造法を適用し報告してきた¹⁾.今回,32年前にHAPによる顎堤改造法を適用した症例についての長期経過を報告する.
【症例の概要・治療内容】
患者は初診時60歳男性.咀嚼障害を主訴に当科を受診した歯槽骨吸収著明な上下無歯顎症例であった.上顎に前歯部から小臼歯部での広範なフラビーガムを有したため,交叉咬合排列による全部床義歯を製作した.しかし,その後4年3ヵ月間義歯調整等を行ったが,義歯は推進し咀嚼機能の改善には限界があった.
1.上顎の顎堤改造
補綴的処置のみでの対応では上顎義歯の動きに対処できなかったため,HAPによる顎堤改造法の適応と判断し,局所麻酔下でフラビーガムの唇側の縦切開から骨膜下にトンネルを形成したうえでHAP(ボーンタイト,三菱マテリアル社)を填入し,義歯様シーネを下顎義歯からコイルスプリングで維持してHAPの固定後,フラビーガムを切除した.同部が骨様硬さに回復した時点でブレードティースを用いた義歯製作を行った.
2.経過
新義歯装着後,タッピング時の義歯の動きは著しく減少し,顔貌と咀嚼機能は改善した.その後,定期的リコールを継続し,咬合調整やリラインを適宜行ったが,その後ほぼ変化は認められなかった.12年経過後に,人工歯部の磨耗が大きくなったため,新たに金属歯を用いた新義歯を製作した.32年経過した現在でも,咀嚼機能に変化はなく,パノラマX線画像においてHAPは,上顎前方部で高さが減少したが,臼歯部では高さを保っていた.上顎前歯部顎堤の粘膜の被圧変位性はほぼ正常であり,タッピング時の義歯の動きは大きな変化がなく,審美性も保たれている.
【経過ならびに考察】
HAPを用いたフラビーガムの上顎顎堤を改造する方法は,義歯の安定性向上に有効であり,長期経過においても顎堤形態は保全され機能も維持されることが示唆された.
【参考文献】
1) 濵野徹,水流和徳,木下智恵ほか.上顎前歯部顎堤吸収が著明な無歯顎患者の容貌の改善-顆粒状ハイドロキシアパタイトを適用した1治験例-.歯科審美 1997; 9:309-316.