講演情報
[P-163]疼痛を主訴に顎関節症・口腔顔面痛外来を受診した患者の臨床統計解析
*工藤 広大2,1、中川 種昭1、堀江 伸行1、臼田 頌1、陳 明輝1 (1. 慶應義塾大学 医学部 歯科・口腔外科学教室、2. 国立がん研究センター中央病院)
【目的】
非歯原性疼痛の原因として筋筋膜痛が最も多く報告されており,非歯原性歯痛ガイドライン1)では約50%,当院の2012年の調査2)では74%を占めた.筋筋膜痛は画像検査や血液検査では診断が困難で,医療者の認知不足も相まって適切な診断と治療が遅れ,慢性化しやすい.また,関連痛を引き起こす特性や脳の情報処理機構の影響により,患者は歯科治療が関与していると誤認する傾向があり,これが難治性の慢性疼痛へと繋がる要因となっている.本研究では疼痛を主訴に顎関節症・口腔顔面痛外来を受診した患者の臨床統計解析を行うこととした.
【方法】
2018年2月から2023年7月に当院の口腔顔面痛外来を受診し,研究に同意した198名を対象に,性別,年齢分布,主訴部位,紹介元,病悩期間,病態診断,治療法などの臨床統計をレトロスペクティブに解析した.
【結果と考察】
対象患者は男性42名,女性156名で,平均年齢は50.5歳であった.主訴は頭痛,歯痛,顎痛,開口障害,顔面痛など多岐にわたったが,診断結果では筋筋膜痛が関与する疾患が78%を占めた.また筋筋膜痛に対するセルフケアにより,78%の患者が1年以内に改善を認めた.特に歯科から紹介された56名のうち50名が最終診断で筋筋膜痛であったが,その内の14名は「歯科治療がきっかけで疼痛を発症した」と誤認識しており,インプラントを含む補綴治療をきっかけとしていたのは10名と最も多かった.これらの結果から,一般歯科医院では筋筋膜痛の診断が困難である現状が明らかになった.歯科医師は痛みを訴える患者に対し筋筋膜痛の可能性を常に念頭に置き,筋触診を実施するとともに,他の代表的な疾患との鑑別を行うことが求められる.また,患者が誤認識しないよう,初診時や補綴治療の開始前など,事前に筋触診を行い,筋筋膜痛の状態を共有し,疾患教育を徹底することが重要である.さらに,セルフマッサージを含むセルフケアの啓発が今後の課題であり,医療者および一般社会への認知拡大が必要と考えられる.
【参考文献】
1) 日本口腔顔面痛学会.非歯原性歯痛ガイドライン 改訂版
2) 口腔顔面痛外来における口腔内疼痛患者の臨床統計.日本口腔顔面痛学会雑誌 2015 ; 32:1-6.
非歯原性疼痛の原因として筋筋膜痛が最も多く報告されており,非歯原性歯痛ガイドライン1)では約50%,当院の2012年の調査2)では74%を占めた.筋筋膜痛は画像検査や血液検査では診断が困難で,医療者の認知不足も相まって適切な診断と治療が遅れ,慢性化しやすい.また,関連痛を引き起こす特性や脳の情報処理機構の影響により,患者は歯科治療が関与していると誤認する傾向があり,これが難治性の慢性疼痛へと繋がる要因となっている.本研究では疼痛を主訴に顎関節症・口腔顔面痛外来を受診した患者の臨床統計解析を行うこととした.
【方法】
2018年2月から2023年7月に当院の口腔顔面痛外来を受診し,研究に同意した198名を対象に,性別,年齢分布,主訴部位,紹介元,病悩期間,病態診断,治療法などの臨床統計をレトロスペクティブに解析した.
【結果と考察】
対象患者は男性42名,女性156名で,平均年齢は50.5歳であった.主訴は頭痛,歯痛,顎痛,開口障害,顔面痛など多岐にわたったが,診断結果では筋筋膜痛が関与する疾患が78%を占めた.また筋筋膜痛に対するセルフケアにより,78%の患者が1年以内に改善を認めた.特に歯科から紹介された56名のうち50名が最終診断で筋筋膜痛であったが,その内の14名は「歯科治療がきっかけで疼痛を発症した」と誤認識しており,インプラントを含む補綴治療をきっかけとしていたのは10名と最も多かった.これらの結果から,一般歯科医院では筋筋膜痛の診断が困難である現状が明らかになった.歯科医師は痛みを訴える患者に対し筋筋膜痛の可能性を常に念頭に置き,筋触診を実施するとともに,他の代表的な疾患との鑑別を行うことが求められる.また,患者が誤認識しないよう,初診時や補綴治療の開始前など,事前に筋触診を行い,筋筋膜痛の状態を共有し,疾患教育を徹底することが重要である.さらに,セルフマッサージを含むセルフケアの啓発が今後の課題であり,医療者および一般社会への認知拡大が必要と考えられる.
【参考文献】
1) 日本口腔顔面痛学会.非歯原性歯痛ガイドライン 改訂版
2) 口腔顔面痛外来における口腔内疼痛患者の臨床統計.日本口腔顔面痛学会雑誌 2015 ; 32:1-6.