講演情報
[SY1-1]顎と歯の歴史を読む
*遠藤 秀紀1 (1. 東京大学総合研究博物館)
キーワード:
進化、歴史、比較機能形態学
脊椎動物の咀嚼に関する機能形態進化の実態を検証しよう。
論点の一つは顎関節の相同性である。鱗状骨(側頭骨)と歯骨の間に作られるヒトはじめ哺乳類の顎関節は、二億年以上継続する構造だ。上顎側を方形骨で下顎側を関節骨で構成する起源的顎関節が破棄された瞬間が哺乳類の始まりであり、同時に哺乳類は鱗状骨と歯骨からなる顎関節を獲得したことになる。新しい顎関節は二つの付加的な耳小骨を生むので、聴覚機能の高度化とリンクしていると考えられるのだが、この劇的な顎構造の改変をイメージとして理解することは容易ではない。
次の論点は機能にある。補綴の観点からすれば、歯の機能不全が解消されることが第一であって、進化史に着目する動機は少ないのかもしれない。だが、マクロ比較解剖により進化を把握しようとする者は、この視点によって五億年に及ぶ進化の時間を客観的に語ろうと試みてきた。本演題はアリクイを採り上げ、ヒトから一億年は隔たったこの系統が、咀嚼機能の進化史に起こした大変革を見よう。人類の寛骨と下肢の運動機能、ジャイアントパンダの前肢端把握機構、バイカルアザラシの眼球サイズの拡大、テンレックの体毛運動などを紹介することで、進化のダイナミズムを見ながら咀嚼装置の歴史性の議論を試みる。
補綴学なので、歯の進化を横断的に見られれば幸いである。補綴に関わる者にとって相手はヒト一種であろう。しかし歯たるもの、ヒトを外れれば、形態も機能も無限に思われるほど多様だ。補綴の周辺に見え隠れする、歯の歴史学的視座を往来したい。
論点の一つは顎関節の相同性である。鱗状骨(側頭骨)と歯骨の間に作られるヒトはじめ哺乳類の顎関節は、二億年以上継続する構造だ。上顎側を方形骨で下顎側を関節骨で構成する起源的顎関節が破棄された瞬間が哺乳類の始まりであり、同時に哺乳類は鱗状骨と歯骨からなる顎関節を獲得したことになる。新しい顎関節は二つの付加的な耳小骨を生むので、聴覚機能の高度化とリンクしていると考えられるのだが、この劇的な顎構造の改変をイメージとして理解することは容易ではない。
次の論点は機能にある。補綴の観点からすれば、歯の機能不全が解消されることが第一であって、進化史に着目する動機は少ないのかもしれない。だが、マクロ比較解剖により進化を把握しようとする者は、この視点によって五億年に及ぶ進化の時間を客観的に語ろうと試みてきた。本演題はアリクイを採り上げ、ヒトから一億年は隔たったこの系統が、咀嚼機能の進化史に起こした大変革を見よう。人類の寛骨と下肢の運動機能、ジャイアントパンダの前肢端把握機構、バイカルアザラシの眼球サイズの拡大、テンレックの体毛運動などを紹介することで、進化のダイナミズムを見ながら咀嚼装置の歴史性の議論を試みる。
補綴学なので、歯の進化を横断的に見られれば幸いである。補綴に関わる者にとって相手はヒト一種であろう。しかし歯たるもの、ヒトを外れれば、形態も機能も無限に思われるほど多様だ。補綴の周辺に見え隠れする、歯の歴史学的視座を往来したい。