講演情報

[SY1-2]ロボット咀嚼シミュレーションの新展開 -食塊形成マニピュレーション-

*東森 充1 (1. 大阪大学)
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キーワード:

咀嚼シミュレーション、食塊形成、ロボティクス

ヒトの咀嚼は,歯や舌を用いた食品の“粉砕”,断片群と唾液の“混合”,断片群の“まとめ”から構成され,これら動作を複合的かつ反復的に繰り出し,巧みに食塊(柔らかく飲み込みやすい食品断片群の塊)を形成していく.このような「技能」をヒトは日常的にほぼ無意識に遂行する.一方,歯や顎,舌の機能に不全がある咀嚼困難者においては食塊形成が適切に行われず,誤嚥や窒息の原因となる.このため,ヒトの咀嚼の工学的理解と再現は,歯学分野での摂食メカニズム解明や診断データ解析,食品科学分野での介護用食品の評価や開発に関連して切望されている.しかしながら,従来の機器を用いた咀嚼シミュレータは,ヒトの口腔部周辺の筋骨格や駆動原理の再現に注力したもの,あるいは,食品評価のための破壊試験に注力したものに大別され,ヒトの食塊形成にまで踏み込んだものは見当たらない.そのような中,講演者らは知能ロボティクスの視座から,ヒトの咀嚼を「対象物を食品,目標状態を食塊とした,食塊形成マニピュレーション技能」と解釈し,どのようなロボットモデルで具現化できるか?という問題に取り組んできた.本講演では,「食塊形成マニピュレーション技能」を志向した新しいロボット咀嚼シミュレータの研究開発について紹介する.このシミュレータは,ヒトの構造や動作の再現ではなく,形成されゆく食塊の再現を重視しており,介護用食品の破断特性や凝集性の適正評価,さらには,食塊形成過程の測定データを介して咀嚼困難者の病態理解に貢献できる可能性を秘めている.