講演情報
[SY4-2]長期QOLと持続可能性からみる補綴の保険給付と私費の在り方
*猪原 健1 (1. 中国・四国支部)
キーワード:
保険給付、モラルハザード、制度設計
補綴の公的給付をめぐる議論は、これまで供給側の採算性や制度維持に焦点が当たりやすく、患者側の長期QOL、すなわち安すぎる自己負担と出来高払いが安易な補綴介入を誘発しうる点は十分に整理されてこなかった。補綴は短期の機能回復に有効である一方、支台歯形成など不可逆的介入を伴い、支台歯負担や二次う蝕、再製作を通じて「レストレーションサイクル」を回し長期予後を損なう可能性があるという時間軸のパラドックスを抱える。さらに人間は正しい情報を得ても長期的投資判断を常に適切に行えるとは限らず、私費補綴の選択はまさにその困難さを含む。加えて補綴は歯科技工士の技能と労働に依存するため、給付範囲の変更は供給体制に直接波及し得る。そのため、単一の価値観や立場に依存しない論点整理フレームワーク(FW)が必要となる。OECD各国データでは歯科医療自己負担(対GDP比)と高齢期口腔指標(65〜74歳の平均現在歯数)に正の相関が認められた。これを踏まえ(1)長期アウトカムとQOL、(2)不可逆性とレストレーションサイクル、(3)行動誘導とモラルハザード、(4)公平性とアクセス、(5)持続可能性、(6)供給体制と制度整合の6軸FWを提案する。補綴給付の議論は「給付拡大」対「給付抑制」の二項対立ではなく、患者の長期利益と社会保障の持続可能性を同時に最大化する制度設計課題として扱う必要がある。自己負担設計は過剰介入抑制に寄与し得る一方、低所得者アクセス確保のため保護策や、予防連動型補助などを組み合わせ、技工供給体制の移行にも配慮した検討が求められる。
